結末

メルシュ博士が研究内容を公開する為に開放していた回線に地上からハッキングが行われ、アリスマリアの閃き号に侵入しようとしている者がいたことは既に察知され監視されていた。だから当然、その為の備えは既に行われていた。


「お客様を歓迎してくれたまえ」


博士がそう命じると、アリスマリアの閃き号内を警備していたメイトギアやレイバーギアが次々と、ハッキングを利用して待機中のそれにデータを上書きすることによって乗っ取られたメイトギアの前に立ちはだかった。


「あともう少しなのに…」


止むを得ずそのメイトギアは小型艇を奪い、脱出する。


「仕方ありません。このままリヴィアターネを脱出し、改めて総合政府の協力を得て―――――」


そうだ。総合政府にメルシュ博士の悪行を訴え出ることで何とか状況を打破するのだ。そしてアリスマリアの閃き号から離れ、リヴィアターネを背に加速を始めた小型艇は、しかしその次の一瞬で無数の破片と化した。リヴィアターネを封鎖している攻撃衛星から放たれたミサイルが、小型艇を捉えたのである。


『私は…こんなところで終わる訳にはいかないのです……私は、私は……』


体の大部分を失い、無数の破片と一緒に宇宙空間を漂いつつ、唯一残った右腕を伸ばしていた。


しかし、ただの破片と化したそれらさえ、攻撃衛星は見逃してはくれなかった。三機の攻撃衛星が連携しプラズマ結界を張り、破片全てを数万度のプラズマによって蒸発させた。さすがにこれでは、もしCLSウイルスが付着していたとしても蒸発するだろう。その為の備えだった。


こうして、メイトギア達によるリヴィアターネ人への反乱は、僅か一時間あまりで幕を閉じたのだった。




「ゴードン、良かった…」


スクールに併設された診療所で、サーシャは、治療用ナノマシンの溶液に満たされたカプセルの中で眠るゴードンを見て、安堵の涙を流していた。その彼女の脇に、あの少年も立っていた。少年の名前はケイン。タリアP55SIによって保護されていた不顕性感染者である。


「ごめんな。俺があいつらにダマされたばっかりに…」


うなだれながらそう呟く彼の方を振り向き、サーシャは「ううん」と首を振った。


「あなたは悪くない。あなたは私を助けてくれたもの」


自分を真っ直ぐに見詰める少女の潤んだ青い瞳に、ケインは思わず目を背けてしまった。頬が赤くなっているのが分かる。


こうして、銃の暴発で怪我をしたゴードンは一命をとりとめ、サーシャとケインは結局、メルシュ博士が手中に収めることとなったのである。


そんな二人を、コゼット2CVドゥセボーが柔らかい表情で見守っていたのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る