ケイン・パーシアス

メイトギア達による反乱から一ヶ月もすると、イニティウムタウンもすっかり平穏を取り戻し、サーシャも元の生活に戻り、笑顔を取り戻していた。怪我をしていたゴードンが帰ってきたからである。しかも、ケインも新たにスクールに通い始めていた。


この時点でのケインの年齢は十六歳ほどと見られ、サーシャらよりも明らかに年上だったのだが、学力については小学生並みのものしかなく、その為、サーシャと同学年のクローン達に引き続いて作られた下級生達と同じクラスに編入されることになった。


「は、初めまして。ケイン・パーシアス…です」


顔を真っ赤にして自分よりずっと小さい子供達に向かって挨拶するケインを、子供達は温かく迎え入れてくれた。なお、ケインが名乗った<パーシアス>という名字は、ケイン自身が自らの名字を覚えていなかったのでメルシュ博士が(適当に)つけたものである。ギリシャ神話に出てくる英雄<ペルセウス>の英語読みから取られたものだが、いつもの如く、これといって深い意味はない。才能溢れるメルシュ博士ではあるが、ことネーミングという点になると、正直、壊滅的にセンスがなかった。数字とか機械部品とか神話の登場人物とか、有り合わせのものを思い付きで付けるだけである。


まあそれはさておき、こうして学年は違ってもサーシャとケインがスクールに通うようになった訳だが、二人がこうして出会ったところで、それだけでは人間が増えることはない。しかも、二人の間に子供ができたとしてもその子供が彼女らと同じく自然な不顕性感染者として生まれるかどうかも分からない。不顕性感染者同士で子供を作ればそうなる可能性はずっと高くなるだろうが、それでも必ずそうなるとはいかないだろう。


そもそも、いくらお互いに純粋な人間の生き残り同士だからといってサーシャとケインが都合よく互いに惹かれ合うとは限らない。薬物などを用いてそうなるように仕向けても良かったが、それでは実験にならない。サーシャとケインが今後どのように互いを意識するかを見るというのも、博士が思い付いた新しい実験の一つだった。


それに、クローンも人工不顕性感染者の赤ん坊達もいるので、サーシャやケインがその中の誰かをパートナーに選んでも充分に検証になる。


その辺りも、メルシュ博士の実験の一環である。


ただ、懸念もあった。


不顕性感染者はあるDNAが活性化していることでCLSに感染しても発症しないのだが、実はそれは、別のある疫病に関して言えば非常にマズいことだったのだ。


そしてその懸念は、現実のものとなったのだった。


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