レオノーラ・アインス

そうして博士が<メイトギア人間>、<DNAコーディネートを行った人間を出産>、<DNAコーディネートを行ったクローンの製造>に着手した陰で、コルスィーベンに対する実験も淡々と続けられていた。CLSに感染した胎児が、母体の中でどのように振る舞うのか、やがて自然な形で出産に至るのかということが。


が、肝心の胎児が成長しないのだから、出産のタイミングはいつまで待っても訪れなかった。胎児も母体から必要な栄養も酸素も供給されるので基本的に大人しく経過も順調で、変な言い方ではあるが母子共に<健康>だった。なのでこのまま、この状態がはたしていつまで続くのかという実験に移行したのだった。


メルシュ博士自身の関心も、リヴィアターネの環境に適応した<リヴィアターネ人>の創造に忙しく、データは取り続けているもののその観察はレオノーラ・アインスに任せきりであった。


「今日も元気ね。コルスィーベン」


いつも通りに知性を感じさせない虚ろな視線を虚空に向けているだけだが、確かに顔色もよく普段と変わらない様子に、レオノーラ・アインスは微笑んだ。ずっと面倒を見てきたことで、彼女はいつしかコルスィーベンに対して家族のような親近感を持つようになっていた。脳機能に障害を持ってしまった姉の介護をしている妹とでも言えばいいのだろうか。とにかく観察対象と観察者以上の関係なのは間違いないだろう。


とは言え、CLS患者の世話については、メイトギアとしての彼女であるエレオノーラが相変わらず行っているし、そこにリリア・ツヴァイも加わったことで、レオノーラ・アインスがコルスィーベンの観察と世話に比重を置くことは特に問題にならなかった。


メイトギアには元々、複数の機体とリンクして、メインとなる機体の意識の下で全体が有機的に連動できる機能がある。メイトギアのエレオノーラとして活動しつつレオノーラ・アインスとして行動することも可能だった。もちろんそれはリリアテレサとリリア・ツヴァイでも同じだった。


ただ、同じロボットの体であれば全く問題ないものの、生身の体を操るのはさすがに勝手が違い、どうやらこれ以上、体を増やすことは現実的ではないようだ。メイトギア一体につき、メイトギア人間は一人ということだろう。


なお、メイトギア人間の体は、心臓の機能が回復し、頭の中身が人工脳に交換されているだけで基本的にはCLS患者のそれである為、一回の食事で必要なエネルギーは非常に少なくて済み、しかも排泄もしなかった。この辺りはメイトギアにとってはありがたかっただろう。その分、ロボットの体と似通った点はあったのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る