リヴィアターネの造物主

『不顕性感染者を人工的に生み出す』


DNAのコーディネートは、一部の遺伝子疾患を除き基本的には認められていなかった。個体の多様性を確保し続ける為である。


実はかつて、一つの植民惑星が過剰なDNAのコーディネートが元で壊滅する危機に陥ったことがあった。その惑星の自治政府が主導してジャンクDNAを排除し効率化を図った結果、当時の時点では既に過去のものとされていた感染症が猛威をふるって総人口の一割が失われ、残った者達も全滅の危機に晒されたのだ。


その事件自体はもう何百年も前の話なのだが、それをきっかけにDNAのコーディネートは慎重に行うべきという考えが支配的になった。法律上もそうなっている。


ダウン症等の疾患についても、それに対処する様々な治療法があることで、さほど気にされなくなっていたのだった。近視や乱視が眼鏡やコンタクトレンズの普及で重大な障害ではなくなったのと同様に。


故に今回、メルシュ博士が思い付いたことも元の社会に戻れば認められない可能性が高い。そうやって特定の疾患に対応する為に遺伝的に人間を改造するよりは疾患そのものを制御する方法が探られるだろう。DNAをコーディネートすることで人間にとってCLSが脅威でなくなったとしても、それが別の疾患を生む可能性だって十分にあるし、事実そういう事例がいくつも報告されている。


が、博士にとってはそんな話は知ったことではなかった。やってみようと思ったことはやってみる。彼女はそういう人間なのだ。


だから早速、コラリス、コライン、コルツェウィ、コルドレイ、コレルフ、コルトロイス、コルシックスをそれぞれ人工授精で妊娠させ、人工的な不顕性感染者を生み出すことにした。


それだけではない。もっと手っ取り早くということで、コルネウフを除いた名有りのCLS患者のDNAを採取し操作、CLSを不活性化させるDNAを活性化させたクローンの製造にまで着手したのだった。


<メイトギア人間>、<DNAコーディネートを行った人間を出産>、<DNAコーディネートを行ったクローンの製造>、それぞれの方法でこのリヴィアターネでも問題なく生きられる人間を生み出す実験に取り掛かったのである。


どこまでも好き勝手するメルシュ博士は、もはやリヴィアターネにおいては造物主に近い存在だっただろう。


もし、博士の実験が成功してリヴィアターネに人間が増えることになっても、その者達はここから出ることはできない。出ようとすれば容赦なく抹殺される。


だが、ここ、リヴィアターネは、人口さえ増えすぎなければ十分に人間が生きていくことができる環境だった。


博士が行ったことがどういう結果を招くのかは、誰にも分からないのであった。


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