リヴィアターネ人

CLS患者を徹底的に解剖して細胞レベルで詳細に調べて、人間とは違うCLS患者の生理機能も、メルシュ博士は把握していた。CLS患者は内臓の機能が人間と比べて変化している部分も多く、その辺りの制御も必要だと思われた。


だが実際には、腎臓は腎臓に定着したCLSウイルスが、小腸は小腸に定着したCLSウイルスが、それぞれ独自に機能しており、頭の部分に形成された組織が統括して制御している訳ではないことが確認された。その為、新たにそれらを制御する為のプログラムなどを作る必要がなかったのは幸いだった。


一方で、性的な興奮状態になることがないCLS患者と違って、メイトギア人間にはそういう部分を持たせることは容易と思われた。人工脳で性的興奮状態を作り出せばいいだけだからだ。現時点ではその種の機能は敢えて持たせていないが、今後必要に応じてアップデートしていく余地はあるし、十分対応できるようにはしてある。妊娠するにはナノマシンの補助が必須になるが、理論上は妊娠も可能となる。ただし、何の処置も行わずただ妊娠させただけではコラリスの胎児がCLSに感染して死亡したのと同じことが起こるだけなので、出産に至る為には結局、DNAをコーディネートして人工的な不顕性感染者として誕生させる必要はあるのだが。


そういう点で考えると、メイトギア人間は真の<リヴィアターネ人>にはなりえないのは自明の理だった。あくまでリヴィアターネ人が生まれる為の礎程度の存在だろう。だが、メルシュ博士としてはそれでも一向に構わなかった。何となく面白そうだから作ってみたくなっただけだったのだから。


リルフィーネを通じて計画に賛同してくれるメイトギアを募集すると、募集開始から一週間で三十体のメイトギアが集まった。情報自体はかなり拡散した筈なのだがそれだけしか集まらなかったのは、やはりCLS患者を再利用した肉体をメイトギアが操るという点が倫理的に受け入れられなかったからだろう。また、初期化された上で投棄されたメイトギア達は、そもそも計画そのものに興味を抱くことがなかったと思われる。博士としても、初期化されて人間の情動や価値観を学んでいないメイトギアには用はなかった。メイトギア人間といえどやはりそれなりに人間性のようなものは欲しいと考えていたからだ。


メルシュ博士は、何もかもが自分の思い通りになることを望んでいる訳ではない。むしろ自分の思い通りにならない何かを期待していると言ってもいいだろう。自分が徹底的にお膳立てしてもなおその通りにならない<何か>。


そういうものを発見することこそが研究の醍醐味だと考えていたりもするのだった。


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