メルシュ博士の幸せ

メルシュ博士の研究施設は、もはや奇怪な生物の巣窟と化していた。収容所は既に六棟目が完成し、収容されたCLS患者の数も二十名を超えた。コルネウフのような胎児は別として、十二歳以下、十代から二十代、三十代から百三十代、百四十代から百九十代、二百代以上の男女それそれが最低一人ずつ確保され、コラリスと同じ処置を受けた。


なお、<星歴>に入ってからの人類は健康寿命が二百歳を超え、公式な記録のある最高齢は二五三歳となっている。これについては割と変動が大きいのであまり重要な数値ではないが。


いずれにせよ、成人するまでは二十一世紀頃の人類とそれほど変わらないものの、老化の速度が圧倒的に抑制され、百三十代くらいで四十代相当、百九十代で六十代相当、二百代で七十代相当という感じになっていたのだった。二十一世紀頃の三十代から四十代の働き盛りの期間が百年程と、特に長くなっているのである。


逆に、一般的には現役引退を迎えるであろう七十代以降に相当する年数はそれほど長くはなっていない。しかも百歳くらいまでは自然妊娠も可能だ。これによって労働人口は確保され、社会が成り立っているということだ。これはもちろん、高度に進歩した再生医療や老化抑制技術の恩恵によるものと言えるだろう。その中にはメルシュ博士の発明による特許技術が利用されているものも数十を数え、彼女に莫大な富をもたらしているのだった。


彼女はそうやって得た富を惜しみなく研究に費やしてきた。メルシュ博士にとっては研究こそが最上の喜びであり、贅沢や享楽的な趣味になどはまるで興味が無かったのだ。だから彼女のクローゼットには、動きやすく汚れても惜しくないファストファッションがぎっしりと詰まっており、しかもほぼ使い捨てなので毎日のように配達されていた。


しかし、ここに来てからはさすがにそういう訳にもいかず、リリアテレサとエレオノーラが手分けして洗濯をしてくれていたりもする。衣類のストックもそこそこの規模の店舗一軒分くらいはあるので当面は心配ないだろうが、衣服の消耗を避ける為、CLS患者の手術等の汚れる作業は、ロボットの体であり常に全裸故にすぐに丸洗いできるアリスマリアRが主に担当していた。


その為、一見すると全裸の女性が全身血まみれで手術をしているという凄惨な光景が繰り広げられていたりもしているということだ。恐ろしく、かつシュールと言えるのかも知れない。


それでも、当のメルシュ博士はとても幸せそうだった。むしろ人間社会の中にいた頃より安らいだ柔和な顔つきをしているとも言えただろう。彼女を煩わせるつまらない横槍が入らないからなのだろうが。


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