コルネウフ

CLSウイルスのワクチンが開発されない理由の一つが、そこにあった。宿主を見付けられないCLSウイルスは約三十日で自己崩壊してしまう為、ウイルスだけを保存するということが出来ないのだ。さりとて、ウイルスを分離しないとワクチンの作りようがない。感染者の体内で直接ワクチンを作ることも他の研究者によって試されているが、いまだ成功には至っていない。これもまた、ウイルスを確保されて対策されないようにする為のセキュリティを思わせた。


メルシュ博士としてはCLSウイルスを制圧するとかそんなことには興味はなかった。自分の研究が結果としてそういうことに繋がる場合がありうるとしても、それを目的にはしていなかった。彼女が知りたいのは『何が起こるのか?』であって、そうならないようにするにはどうすればいいかなどどうでもよかったのである。


だから当然、コライン、コルツェウィ、コルドレイ、コルスィーベンの妊娠の経過が現在での一番の楽しみだった。


「よ~し、きたきたあ~」


それぞれの胎児が次々と発症する中、彼女はすごく楽しそうだった。


コラインの胎児はコラリスのと同じように三日後に完全に活動を停止した為にすぐに摘出し、次の妊娠に備えて休ませた。


コルツェウィの胎児は一週間持ち堪えたがやはり完全に活動を停止してしまったので、胎児を摘出後、やはり休ませた。


しかしコルドレイとコルスィーベンの胎児は、発症後二週間が経過しても特に変わりなく活動を続けていた。どうやら、栄養や酸素の供給が通常より五十パーセント以下であれば、問題ないものと思われた。と言うより、五十パーセント辺りがギリギリのラインということかも知れない。


だが、六歳くらいの少女のCLS患者であるコルヴィアと十一~十二歳くらいの少年のCLS患者のコラクトの例を見ていて予測していた通り、胎児はそれ以上、成長する様子を見せなかった。故にメルシュ博士は、コルスィーベンの胎児がこの後どうなるのかの観察を続けることにして、コルドレイの胎児については摘出してしまったのだった。胎外に出せばどうなるのかを見る為だ。


が、コルドレイの胎児は、およそ十八週頃の胎児の状態であるにも拘らず、胎外でも、保育器などの助けがなくても餌を求めるがの如くもぞもぞと動いて見せた。しかも、その小さな手にミミズに似た生き物を掴ませるとしっかりと口に運び、ムシャムシャと貪り始めたのである。恐ろしいことに、CLS患者としてはもう既にほぼ完成された存在だったのだ。


そしてその胎児には、<Colneufコルネウフ>の名が与えられたのであった。


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