CLSウイルスについて

CLS患者の肉体とそれを構成する細胞は元々の人間のものだったので、細胞そのものの機能や寿命は人間のそれだった。そして宿主の細胞が死滅すると、そこに定着していたCLSウイルスも残らず死滅した。神経細胞や脳細胞内で増殖し、胞子状になって体表面から空中に飛散していくことで拡散していくのだが、感染すべき宿主がいなくなったCLSウイルスはどうなるのかというのが問題だった。


ニワトリ程度の脳の大きさでは感染・発症しても体を操ることができずにそのまま活動を停止してしまう。それより脳の小さい動物では感染しても発症しない。そして、発症しないままやがてウイルス自体が自己崩壊してしまうのだ。


また、宿主を見付けられなかったCLSウイルスも、約三十日で自己崩壊してしまうことが、メルシュ博士の観察によって確認された。


と言うことは、CLS患者や患畜の寿命は、本来の動物のそれと大きくは違わないということだろう。そして、感染・発症できる動物が死滅してしまった後は、CLSウイルスは三十日で自己崩壊して死滅する。唯一、ある一定の条件下でのみ、休眠状態で生き延びることができることも、シミュレーションによって確認された。


それは、発症する前に死んだ人間の髪の毛の中だった。しかもそれが可能な体質を持った人間の髪の毛の中でのみ、生き延びることができた。そして休眠状態になったCLSウイルスは、新たに何らかの刺激が与えられるまではそのままの状態で眠り続けるのである。


なお、CLSに感染した生物は、活動を停止すると一年を待たず骨すら残さず完全に分解されてしまうこともシミュレーション上では確認された。最初に確保されたCLS患者から採取したサンプルが崩壊を始めていたことに気付いた博士が新たにデータを加えて行ったシミュレーションによる結果だった。リリアテレサに命じて棺に入れ埋葬した遺体を掘り返して確認すると、明らかに腐敗とは違う形でやはり崩壊が始まっていた。なので、コラリスから摘出された胎児の遺体も、いずれは崩壊し消滅するだろう。それを確認する為のサンプルでもあったのだ。


だから、リヴィアターネに入植が行われ、そこに残されていた遺跡の調査によって先住民の遺体が発見されるまでCLSが沈静化していたということだと推測された。かつ、その遺体が発見されるまで人間の遺体等が確認できなかった理由であった。さらに、先住民の遺跡からは、墓と思われるものが見付からなかった。これは、先住民に墓を作る文化がなかったものと推測されていたが、元々、CLSウイルスの影響によるものか、遺体が残りにくいということも影響しているのかも知れない。CLSウイルスが休眠を続けることができる体質を持った人間と言うのは、死後も遺体が崩壊しにくい体質という意味である。


これもまた、人間が現れた時に、眠っていたCLSウイルスが目覚めて猛威を振るうということの証明でもあったのだった。


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