第4話

開けるべきか、開けざるべきか。

新一は自問しながら金庫の前にひざまずいた。

二つの鍵穴を見る。珍しい。異なった二種類のディンプルタイプになっている。八ピンと九ピンのセット。一個当たり十分もかからないだろか。

ダイヤルキーが二つ。ガラスの向こうだ。途端に見えにくくなる。どちらも四枚プレートの様だが今一つはっきりしない。


新一が自分の能力に気が付いたのは中学にあがった時だった。

店に届いた新型金庫を父が運んでいるとき、金庫扉の内側が見えることに気が付いた。

透視能力。

集中することで五センチ程度の金属ならその向こうを透かして見ることができる。その奥までは見えない。金庫や扉の鍵、小型電子機器の内部構造あたりが限界だとわかった。

一方で透明なガラスがスリガラスのように曇って見える。これは大人になってから困った。車の運転で下手に集中すると、フロントガラスが白くなってくる。今では慣れたこともあり、悪天候時を避けるだけで生活できている。

残念ながら壁、土、木材、服や生物体は透視できない。中学時代からの習慣で、三十路を超えたいまでも町中で試したりするが、ここは残念としか言いようがなかった。

結果的に、新一は鍵やダイアルにかかわらず、金庫を開ける能力があった。それも手の感触や音に頼ることなく目視で。


一時間もあれば。新一は金庫にかかる時間を見積もった。

早すぎる。この美人刑事は新一に二時間を与えた。おそらく腕の良い金庫破りでも三時間くらいはかかりそうな金庫である。「鮮やかな手口」を考えれば、二時間以内で開けたと推察できる。

二時間で三か所開けよう。新一は腹をくくって作業に取り掛かった。

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