第5話
「はい。これまで。」
腕時計をのぞき込んで、朋子が声をかけた。
集中していた新一は、一瞬体を震わせて全身の力を抜いた。
「あと一か所なんですが。」
一時間以内は本気でも無理だったな。新一が本気でやっても、扉に内蔵されたガラスに視界を阻まれる。難題といえた。
「なにか気づいたことはありますか?」
新一の残念そうな声には頓着せずに朋子が尋ねた。
「気づいたことというと?」
「何でもよいの。気になったことでも。」
朋子の真剣な問いに少しいぶかりながら、新一は作業中から気になったことを言った。
「正直、気になったことが二つあります。一つ目は鍵です。」
「どんなふうに?」
隣で聞いていた勝田が面白そうに身を乗り出した。
「どちらも新品のような動きなんです。」
「新品?」と朋子と勝田。
「はい。鍵っていうのは何度もかけて回していると、差込口に傷がつきます。それに、ロックをかけているピンごとに癖がつくんです。三番目のピンはよく動くけど八番は動きにくいとか。これはディンプルタイプといって-」
新一は鍵穴を指さしながら続けた。
「鍵に開いている穴にピンが落ち込むことでロックが外れます。大きい穴は深く落ちるし小さい穴は浅く落ちます。その可動域の影響もあって、滑りが変わってくるんです。」
「でも、この金庫は差込口の傷も少ないし、ピンの動きもばらついてない。新品でなければ―」
「普段かけてなかったと思います。あくまで推察ですけど。」
勝田の右眉が少し上がった。
「まじか。」
新一はもう一度鍵穴を指さした。
「ここにさっき刑事さんが鍵をかけた時の差込傷がありますよね。」
「これそうなの?」
朋子がのぞき込みながら確認する。後ろから勝田ものぞき込んでいる。
「後で試してみても良いですけど。こっちは俺がつけた傷です。ね。他に傷見当たらないでしょ?中のピンの感触もそうでしたから。」
「作業前の写真撮ってる?」
朋子が勝田に聞く。
「撮ってらぁ。みんな帰っちまってるから、早めに現像するように言ってくるな。」
勝田がすぐに店外に出て電話をかけ始める。
勝田の動きを見届けた朋子が振向きながら、小声で言った。
「あなたの能力はなに?もしかして透視?」
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