第2話

松島朋子まつしまともこは自分の背丈と同程度の大型金庫の前で腕を組んだ。ショートボブの前髪の下には生き生きとした大きな目とすっきりした鼻筋があり、美人だ。百七十センチのすらりとした長身に黒いスーツとパンツ姿。腕を組む朋子の周りには鑑識が数名作業していた。警部補二年目、いわゆるキャリアである。


「指紋も傷も何にもない。鮮やかの一言に尽きる。」

鑑識作業を指揮していた勝田が大声を吐き出す。勝田はもうすぐ定年を迎える、現場一筋の鑑識員である。

「証拠は一つ。「鮮やかな手際」ってところだ。」

朋子は腕組みをほどきながら聞いた。


「こんな鮮やかな手口って、知ってます?」

「俺の知ってるやつにはいないな。それにこいつは最新式で、扉にガラス板が仕込んである。ドリルやなんかで無理やり開けようとするとガラスが割れて、追加のロックがかかる仕組みだ。

「他にもギミック満載で、鍵二つとダイアル式の暗証番号二つが必要だ。腕のいい金庫破りなら開けられないことはないとは思うが、時間がかかりすぎてプロなら避けるシロモンじゃねぇかな。」

「一時間で開くかなぁ。」

「あいた金庫前にしていうことじゃぁねぇけど―たぶん無理だね。」

「どうやって開けたんだろ。防犯カメラの映像じゃぁ、一時間かかってないですよ。」

「少なくとも鍵二つは前もって持ってたんじゃねぇかな。以前、盗まれたとか。」

「合鍵作れるかな?」


朋子は、入り口で警官に止められている作業着の男に目をやった。もともと大きな目が、少し大きくなった。

勝田も同じように目を向けながらつぶやくように言った。

「このご時世、不可能ってもんはないような気がしてるんだけどな。」

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