第2話
「指紋も傷も何にもない。鮮やかの一言に尽きる。」
鑑識作業を指揮していた勝田が大声を吐き出す。勝田はもうすぐ定年を迎える、現場一筋の鑑識員である。
「証拠は一つ。「鮮やかな手際」ってところだ。」
朋子は腕組みをほどきながら聞いた。
「こんな鮮やかな手口って、知ってます?」
「俺の知ってるやつにはいないな。それにこいつは最新式で、扉にガラス板が仕込んである。ドリルやなんかで無理やり開けようとするとガラスが割れて、追加のロックがかかる仕組みだ。
「他にもギミック満載で、鍵二つとダイアル式の暗証番号二つが必要だ。腕のいい金庫破りなら開けられないことはないとは思うが、時間がかかりすぎてプロなら避けるシロモンじゃねぇかな。」
「一時間で開くかなぁ。」
「あいた金庫前にしていうことじゃぁねぇけど―たぶん無理だね。」
「どうやって開けたんだろ。防犯カメラの映像じゃぁ、一時間かかってないですよ。」
「少なくとも鍵二つは前もって持ってたんじゃねぇかな。以前、盗まれたとか。」
「合鍵作れるかな?」
朋子は、入り口で警官に止められている作業着の男に目をやった。もともと大きな目が、少し大きくなった。
勝田も同じように目を向けながらつぶやくように言った。
「このご時世、不可能ってもんはないような気がしてるんだけどな。」
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