朋子さんは解決する

小早川一

第1話

真田新一さなだしんいちは、この瀬戸内の田舎町大畑市で、代々三十年ほど続く鍵屋である。さびれた駅前商店街で小さな店舗を構えている。三十年とはいっても「鍵のサナダ」は新一で二代目だが。


隣の花屋のおばちゃんが入ってくるなり新一に声をかけた。

「新ちゃん。聞いたかい?」

「国道沿いにできたスーパーに空き巣が入ったんだって。ほら、隣駅の。」

「おばちゃん、それ複合施設。確かにスーパーもあるけどデカいし、いろんなお店が入ってるんだよ。映画館もあるし。」

「そんなこと知ってるさ。あそこ大手の花屋が入っちゃって、えらい目あってるんだから。」

おばちゃんは客用の椅子に勝手に腰かけて店内をぐるりと見渡した。

「新ちゃんが子供のころは、ここも結構流行ってたんだけどねー。」

新一は保温ポットからコーヒーを注いだ。

「あの頃は一軒家が結構建ってたからね。今じゃぁ、車のインキ―の呼出しばっかりだ。今朝もいきなりかかってきて、ラブホテルまで出張。」

新一はちゃんとしたコーヒーを入れる。おばちゃんがこのコーヒー目当てに一日一回店に来ることは許容範囲だ。なんといってもこの界隈で六十年間も商売しているおばちゃんだ。情報網は侮れない。


「で、どこに空き巣だって?」

おばちゃんはもったいつけるようにコーヒーをすすり、新一に目を向けた。

「ジュエリーSHIMAっていう宝石店。それが結構いい宝石扱ってるみたいで。」

「ふーん。宝石店だけに入ったの?」

「店舗はそう。しかも金庫破り。」

新一はおばちゃんの向かいに腰掛けながら、ちょっと興味がわいたように聞いた。

「金庫の宝石盗られたの?」

「そう。すごく立派な金庫。最新鋭っての?しかも壊したんじゃなくて開けられてたんだって。鮮やかって言ってたよ。」

「誰が?」

「今朝来た刑事さん。刑事には見えなかったねぇ。若いお嬢さんでさ。新ちゃん留守だったでしょ。疑われてんじゃないの?」

言い終わる前に。店の電話が鳴った。


おばちゃんはコーヒーをすすりながら続ける。

「あとで電話するよう、店の電話番号教えといたから。」

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