第9話 対話

 もっとレモンを飲み終わり、タバコを吸っているとおじいさんが出てきた。昨日と同じような立ち位置になり、おじいさんはタバコを吸いだした。俺は吸い殻を捨て、話かける。

「もう大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。いろいろ辛かったみたいだねー」

 優しそうに話す。

「あのー昨日会ったの覚えてます?」

「覚えてるよー、震えてたね、もう大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。ところで帰り際にまた鳴るって・・・」

「だって気になって出てきたんでしょう?」

「わかるんですか?」

「なんとなくねー」

 なんだろう。このおじいさんからは不思議なものを感じる。さっきのブルースへの対応を見ててもそうだ。うまく言えないが、何かこう、人間離れしているような・・・。

「あの音、何かわかりますか?」

「うん、そーだねぇ・・・あれは、”練習”だよ。」

「練習?」

「そう。いきなりだと皆混乱しちゃうでしょ、彼みたいに。」

 おじいさんはブルースの方を見た。ブルースは落ち着いた様子で店内を掃除していた。

「どういうことですか?」

「地球はねー、もう限界なんだよ、だから皆変わらないとねー」

「変わるって、どういう?」

「ナイスになるんだよー!でもそのためにはいろいろ向き合わないとねー」

「っていうか、地球とか皆って、これこの街だけの話じゃないんですか?」

「違うよー、どこでもやってるよー」

 するとおじいさんは俺の肩を叩いて空を指さした。

「ほら、見える?」

「いえ何も。」

 ただの綺麗な星空しか見えない。

「見ててよ見ててよー」

 おじいさんは言い続け、指をぐぅーっと指し続ける。俺は集中する。ただの綺麗な星空。点にしか見えない星々が様々な明るさで輝いている。それ以外の空間には真っ黒な闇が広がっていて・・・うん?よく見ると同じ黒でも濃さが違う。なんだろう。注意深く見つめると、その濃淡の境目はやがて線のようになり、星を囲んでいく。2個だったり、4個だったり。だくさんの星のグループができていく。あれ?そうなると今度は星の方が気になってくる。なんか微妙に動いてる?ブレてるのか?そうして段々と夜空全体に視点を戻していく。

「ぁあ!?」

 一瞬だった。何かが、様々な大きさの何かとてつもない量で空を覆いつくしていた。

「見えたー?あれから音が出てるんだよー」

 おじいさんを見てから再び空を見上げる。さっきの光景はもう見えなかった。

「でもね、これは練習なんだよー」

「へ?」

「本番はね、もっとも~っとすごいからねー、皆耐えられないよー。だからこうやって練習しないとねー」

「皆・・・おかしくなるってことですか?」

「う~ん」

「え?どうすりゃいいんすか!?」

「どうしようもないよ~もう始まってるもん!」

 おじいさんは大笑いした。俺は気が気でない。

「そんなこと言わないで、なんかあるでしょ!こうすべきっみたいな」

「しようとしまいと起こるべきことが起こるだけだよー」

「そんな・・・」

 するとおじいさんはまた大笑いした。

「はっはっは!諦めてしまいなさいよー、どうしようもないんだからぁ」

 そう言って歩いて帰ってしまった。


 俺はタバコを取り出した。

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