第5話 脅威

 ピンクのランニングにホットパンツ、足はサンダル。髪型はツインテールで左で結んだ髪は赤、右で結んだ髪は青に染めている。そんなおばあさんがそこにはいた。腕を直角に曲げ、軍隊の駆け足のポーズで、その場でジョギングするかのようにずっと足踏みをしていた。


 自分が不審者みたいな状況で、後ろから声を掛けられ、ただでさえ驚いているのに・・・。理解が追い付かず、心臓と脳が悲鳴を上げていた。

「にーちょん、にーちょーーん」

 おばあさんは口をすぼめて話しかけてくる。

「にーちょん、にーちょーーん」

「はい」

「車持ってる?車持ってる?」

 嫌な予感がした。

「持ってないです。」

「もってないにょーーー!にーちょーーーん」

 そう言うとおばあさんは走っていた。あのポーズのまま、腕を振らず、軍隊のように。少し見届けた後、俺は背を向け、自分の車に向かって足早に歩きだす。


 いやー、びっくりした。

 やばいやばい。

 やっぱり夜中は出歩かない方がいい。


 車に乗り込み、エンジンをかけ、出発させる。コンビニから出ようと駐車場内を走らせたとき、前方右側からさっきのおばあさんが迫ってきた。慌ててハンドルを切り返し、別の出口を目指す。その際、

「もってんじゃーーーん」

 と叫んでいたのが聞こえた。

 俺は泣きそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る