第3話 再び

 あれから数日経ち、土曜日を迎えた。土曜日は好きだ。静かな夜を思いきり楽しめる。積んでいた本をゆっくり読んで夜を更かすのが、楽しくて、気持ちよくて、とにかくたまらない気持ちになる。それが俺の唯一の癒しだった。

 ただ今日はそれだけではなかった。あの音は鳴らないのか。気が付けば待っている自分がいた。もともと寝つきは悪く、途中で起きることが多い。あの音が鳴っていればその際気付くがここ数日ない。

 う~ん。

 変に焦らされると余計に気になる。文章が頭に入らない。正直言うと何かが始まるのではないかという期待でワクワクしていた。

 というのも俺は26歳のフリーターだ。もともとは正社員でシステムエンジニアの職に従事していたが、度重なる激務で気が付けば壊れていた。退職し、社会復帰を目指すも、前職でやっていたようにコードを書こうとすると書けない。書きたくない。

 仕方ないので、とりあえず生きていくためになんとか出来る仕事を探し、食い繋いでいく日々。キャリア支援を受け、資格取得を目指すも思うようにいかない。いや、いきたくないのか。

 思えばシステムエンジニアの仕事だってやりたくてやってたわけではない。やりたいことをやりたいはずなのに、やりたいことがわからない。そういえば小学生の頃、何かあったような・・・。まぁ所詮戯れ言。フリーターのよくある話。それでも・・・。

 じわじわと真綿で絞め殺される閉塞した状況にうんざりしていた。変わってくれ。何でもいい。

 ん?せっかく土曜の夜、何考えてんだ。唯一の癒しの時間は、最後の砦でもあった。タバコを吸い、気持ちを落ち着け本に没頭した。時計が3時を指した、その時だった。

「お?鳴ってる?」

 耳を澄ます。間違いない。寝間着のジャージにダウンジャケットを羽織ると、夜の街に出掛けて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る