第2話 朝

 目覚まし時計で目が覚める。一瞬体が硬直し、ぐっと血管に負荷がかかる。この瞬間のストレスは筆舌に尽くしがたい。

 ゆっくりと布団から出る。寒い。10月だし、そろそろ厚着しないとな。時計は7時2分を指す。ゆっくりと2階から1階へ降りていく。母の基子もとこは着替えを済ませ、忙しそうにパートへ行く準備をしていた。

 ふと、聞いてみた。

「なぁ」

「あー泰樹やすきおはよう。」

「昨日うるさくなかった?ブーーーーンって」

「はぁ?」

 忙しそうだ。

「いや、なんか音がするんだよねー。低い音。室外機っぽい。」

「あー、そう。」

 どうでもよさそうだ。

「今は?聞こえるの?」

「今ぁ?」

 どうだろう。聞こえるような、聞こえないような・・・。朝になると、交通量は増えるし、近所の人も起きるし。とにかく雑音が混み合う。ただ、なんとなく聞こえるような・・・う~ん。

 そんな矢先、妙な音に気付く。定期的に聞こえてくる打音。ゴツン、ゴツン。餅つきの要領で、金属を思いっきり打ち付ける、そんな音。気のせいか?いや、聞こえる。

「なぁ」

「はぁ?」

「この音何?」

「・・・」

「この音ー。ゴツン、ゴツンって、2回。ちょっと待って・・・ほら今!」

「あーあれ。綿貫わたぬきだ。綿貫鉄工所。」

「コンビニの近くの?」

 コンビニとは、夜中最初に訪れたタバコを吸ったところだ。

「あんたが聞いた変な音もそこじゃない?あそこ夜中も動いてることあるらしいし。」

 疑問をぶつける。

「家からめっちゃ離れてるよ?」

「夜だったら聞こえるって!」

 忙しそうだ。

「あー、あれじゃない。低周波騒音って聞いたことある?」

「ない。」

「なんか工場とかって、聞こえないレベルの低周波の音が出てるんだけど、敏感な人には聞こえるらしいよ。じゃ行くわ。」

「あーい、気をつけてー」

 そうか。低周波騒音・・・。台所へ行き、食パンを取り出す。表面が軽く焦げるまで焼いたあと、マヨネーズと塩で味付けするのが俺のスタイルだ。頬張る片手で、スマホをいじる。低周波騒音。低周波なので減衰が少なく、遠くまで音が届く。正解かもなぁ。リビングへ行き、テレビに目をやる。


 大御所俳優の不倫、株価の大幅下落、他国の暴動、異常者による怪事件。


 そんなニュースは俺からするとどうでもいい。とりあえず、今度あの音を聞いたら鉄工所に行ってみよう。そう思い、俺は仕事に出掛ける準備をした。

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