たいぶん きみよし

第1話 音

 まただ。


 またあの音。


 独特の重低音。最初は気にならなかった。はじめは月に1度か2度。時間も2時とか、4時とか。寝静まり、夜鳥のさえずりだけが聞こえてくる。そこに突如割って入る重低音。音は小さく、何かが遠くで震えているような・・・。3、4か月前から始まり、今では週2、3のペースで聞くようになる。


 隣家の室外機か何かか?そう思って、一度夜中に外に出て確認したことがある。

我が家は住宅地の一角。不思議ではないが、どうやらそういうことでもないらしい。というより空から聞こえるような・・・。決してうるさいわけではないが、一度フォーカスを当てると気になって仕方がない。まったく、どこの家だ?何をしてるんだ?その音が今日も聞こえ始めた。


 我慢できない。どうするか。とりあえず、気分転換に近所のコンビニに出掛ける。ここから車で5分だ。ここは地方の田舎町。市としては最近人口10万人を割ったところだ。夜更けに対向車なんて居やしない。見えるのは、畑と、家と、ちっちゃいスーパー。明かりはついてない。


 駐車場に着いたところでタバコを取り出す。車を出て、火をつけて、ふぅ・・・。

秋の夜風が気持ちよい。店頭の灰皿の傍で一息ついたところであることに気付く。

 あれ、聞こえる。ここでも?家からは多分2kmくらい離れてる。こんなとこまで聞こえるか?

 慌ててタバコを灰皿に捨て、車に戻る。その後、街中を10kmは走ったか。途中3回駐車し、外へ出た。いずれの場所でも聞こえた。


 街全体で、鳴ってる・・・?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る