第118話 美……美形だっ!!!
清々しい朝だ。
陽の光を浴びながら、旭は牛乳を一気に飲み干す。
濃厚でクリーミー、のどごしの良い牛乳だ。水より人体に近い感じがたまらない。
「この牛乳美味しいですねえ」
旭が言うと、未央は自慢気に胸を張る。
「でしょー。馴染みの牧場から取り寄せてるんだよね」
その説明だと、彼女が胸を張る理由がわからない。詮索しても傷つけるだけな気がしたので、旭はそれ以上なにも言わないことにした。
真彩の部屋に戻る。ふと、部屋の主が居ないことに気づいた。
「あれ、真彩さん居ないんだ」
部屋にいるのは暁火だけだ。宿題だろうか、なにやらノートからA4サイズの紙に書き写している彼女は、ちらと旭を見やって言う。
「工房に行ってたよ」
なにか作りたいものでもできたのだろうか。昨日は調子が悪いと言っていたが、回復したのかもしれない。よかった。
「お姉ちゃんは宿題?」
「うん。もうすぐ終わるよ」
毎年のことだが、彼女は宿題を計画的に終わらせる。そんな彼女の背中を見て育ったおかげか、旭も着実に進められている。
が、一見すると順風満帆に進んでいるように見える夏休みの宿題だが、最大の敵がまだ健在だった。
「自由研究ってなににした?」
訊ねると、彼女は得意気に夏の成果を見せびらかす。冊子状にまとめられた、コピー用紙だ。
「肥料の有無で植物の生育状況はどう変わるか。夏休み前から始めてた一大企画だよ」
いつの間にやら進めていたらしい。手書きの絵図に説明文、写真やら実物の押し花やらで埋め尽くされている。
ぱっと見ただけでも、凄く本格的なもののように思えた。流石は高校生だ。
「肥料か……」
やはりというかなんというか、それなりに効果はあるらしい。付録(自由研究に付録?)として、資料をあたって調べたデータも載せられている。効果的に使うことで、様々な利益をもたらすようだ。
そこで旭は、ふと思った。
「あの竹も、肥料で育ってたりするんかな」
光る竹は、旭達の目の前であっという間に成長した。怪異にも最低限の秩序はある。あの驚異的な成長力のために、なんらかの仕掛けが施されているはずだ。
「ええ、流石に育ち方が極端すぎない?」
首をかしげる暁火を、旭は曖昧な言葉で押し切る。
「そこはほら……怪異的な……」
肥料というのは言葉の綾だ。
「まあ、確かに……埋めるのが一番効果出そうかな……」
ということで、一同は現場へと向かった。
※
「頑張れ頑張れ男の子! ファイトだファイトだ男の子!」
無責任な真彩に。
「腰が引けてるぞ」
高圧的なルディに。
「あ、旭……代わろうか?」
心配する暁火。
「だ、大丈夫……」
ゼエゼエと息を切らしながら、旭は竹林の土を掘り起こしていた。
因みに最初はカヤオと交代で進めていたのだが、かなり早い段階で彼が音を上げたため旭一人で掘っている。
曰く、大人になるといの一番に腰がやられるらしい。そんなの嫌すぎる。大事にしなきゃ……。
一休みして額の汗を拭っていると、スコップをヒョイと持ち去られた。
「代わりますよ」
フラッシュだ。立場上旭より体力も腕力もノウハウもあるらしく、硬い土をどんどんと掘り進めていく。大人って凄い。
彼女の奮闘により、あっという間に穴が広がる。
しかし、そう安々と事が運ぶなら苦労はしない。
「下がれ!」
なにかを察知したルディが叫ぶ。瞬時に張られた結界と、それを叩き割る闖入者。
「ライジング――」
雷光だ。自慢の刀は電気を帯び、すでに臨戦態勢真っ只中。対してこちらは無防備――いや、違う。
直ちに動いたフラッシュが、迷わずシャベルを投げつけた。
「おっと!?」
シャベルが頬を掠め、タラリと血を流す雷光。予想外の一撃に、彼は悪態をついた。
「っぶねえな……野蛮人かよ」
その結果に、フラッシュは不満気だ。
「仕留め損ないましたか……」
言いながらジャケットを脱ぎ捨てると、背後の車両からヒトヨロイのパーツが飛来する。手甲が、グリーブが、胸当てが――彼女の肉体を包み込む。
そして。
「装着、完了」
日輪の輝きを受け、今立ち上がるは青の戦士。
その名も。
「レイバールキア……推参!」
ヒトヨロイを纏ったフラッシュは、ナイフを抜いて雷光に迫る。ここはここは彼女に任せて地面を掘るか? いや、流石に時間がかかりすぎる。重機でもあればいいのだが――
重機?
「あっ」
旭は気づいた。
「来い、ヴィルデザイア!!」
次元の壁をブチ壊し、現れたるは退魔の巨人。
そう。ちまちま穴など掘らず、これで全てメチャクチャにしてしまえばいいのだ。
「あ、お前!!」
雷光が気づいたようだが、もう遅い。旭はタラップに手をかけた。
「クソが! これでも食らえ!! 成長促進ビーム!!」
「なっ!?」
雷光が奇妙な銃を構えた瞬間、怪光線が旭に襲いかかる。とても避けられるものではない!!
「グワーッ!」
※
旭に光線を浴びせながら、雷光は得意気に言う。
「これはそこに埋まってる成長促進装置のプロトタイプだ。ヨボヨボの爺さんになっちまいな!!」
卑劣! 雷光は旭との勝負を捨て、盤外戦術を繰り出したのだ!!
光に包まれた旭のシルエットが、見る見るうちにその姿を変えていく。
もはやこれまでか――この場の誰もがそう思った、次の瞬間だった。
「甘い!!」
直進していたビームの光が、真っ二つに切り裂かれる。
「そんな馬鹿な!?」
激しく狼狽える雷光。
当然だ。ビームは切れるものではない。だがしかし、彼はそれをやってのけたのだ。
「甘いな雷光、甘すぎる!!」
「……お前、まさか……!?」
閃光を振り払いその姿を現したのは。
「そう、これが俺……上山旭!!」
一振りの妖刀を携え、闇を切り裂く黒髪の青年。
「設定年齢二十歳、射手座のO型ッ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます