第七章「無謀の騎士」-その7

「片喰禊ぃ……!!」

 そこには柳がいた。手錠で両手を後ろに回しているが、近くで振り払われたように倒れた警官がいる。

「うがああああああああああああ!!」

 強烈な音と共に、柳が見えなくなる。

(狙いは俺だ……何しやがった……!!)

 何も分からず、ただ自分の元に来る脅威に禊は備える術が無かった。周りの人も気付いたのが遅かったらしく、既に一歩遅れている。とにかく保食を巻き込まないため突き飛ばした。

「っ片喰くん!?」

(まだゆっくりさせてくれねえのかよチクショウ!!)

 しかし、禊に考えながら行動する力は無く、この瞬間、彼に他の人が救いの手を差し伸べる意外に助かる確率は無い。

 ……と思われていたが、禊は自分で何とかした。咄嗟にしゃがみこみ松葉杖を振り回す。

「ぐああああああああああああああ!!!」

 飛びついてきた柳の腹に松葉杖が直撃し、杖は壊れ彼はそのまま転ぶように倒れた。

紫が柳を制圧する。

「もうあきらめろ!!」

「片喰禊ぃ!!!」

 柳が叫ぶ。その目は怒りに燃えていた。禊に向けられた瞳から、今まで描いていた自分の大きな理想がひとりの少年に崩されたことを強く怨んでいることを主張している。

「片喰禊! いいか良く覚えとけ!! お前にはろくな未来が待っていない!! お前がしたことは、今後大きな闘争を招く!! 私のしようとしていたことは、より多くの人を救う行為だったのだ! 後悔するぞ……お前が生み出すのは、秩序なき混乱の世界だ!!」

「もういい。黙って寝てろ!」

紫の一撃で意識を奪われた柳は車両に積み込まれた。そのまま多くの車両が然るべき場所へ向けて発進する。

「無事か片喰、相当反応が良くなったな」

「いや、違う……!!」

 禊は自分に起きた現象に戸惑っていた。

「魔法を使った……」

「魔法だと!? 奴がか?」

「いや、俺もです。奴が使ったのは俺がアイツをぶん殴ったときと同じ手段だ。多少パワーを抑えられてるけど、それで噛み付いてくるつもりだったのかも知れない」

「分かったから対処したと?」

「いや、考える時間があった」

「お前何言ってんだ!?」

 禊と紫の会話に勝浩が間に入ってきた。

「気がついたら魔力を使ってた……。そしたら時間が遅くなった。……だから奴が飛び出してる瞬間も少しだが見えたし、その間に対策を打てた」

 話を聞いていた欄が声をあげる。

「思考加速魔法!? それってイレギュラーの一種でしょ!」

 イレギュラーとは、現在の技術で認められている以外の魔法を使う超魔核のことである。試験学校にもイレギュラーは数人存在している。「魔素譲渡からの活性化とそれによる細胞治癒」が出来る葵も、今のところイレギュラーに該当する。

「おいおい……なんか新たな力が出たってのかよ」

 禊は自分の右手を見つめる。突き倒された葵が尻を叩き、埃を払って立ち上がる。

「私のせいかも」

「どうしてそう思うんですか?」

 舜月が少し食い気味に問いかける。

「私の力は『私の魔素を送って、魔素を活性化させること』で痛んだ臓器とかを活発化させて最終的に治すのを早くしてるんだけど、それって形は良く分かってないけど活性化した魔素を流し込むの。だから、変異があってもおかしくない……」

「そういうことか……」

「ごめんね片喰くん……」

「いや、武器がひとつ増えた。ありがとな」

「……やっぱり君は優しすぎるよ」

 今自分の体に起きた変異について良く分かってもいないのに、平然を装った返答をする禊に、葵は少し複雑そうな表情で言った。

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