第七章「無謀の騎士」-その6

 校舎を出た二人を出迎えたのは大量の車両と人間、そしてそれらが出す騒音の群れだった。禊達が出てくると、その場の多くの人間が彼らの方を向き、見知った顔は禊の方へと走ってくる。

「片喰!」

「ああ、好宮先生」

 好宮紫の声に、力無く禊は答える。

「お前は随分とやられたみたいだな」

「なんとか生きてるだけマシです」

 紫は禊に松葉杖を渡す。

「こっちもお前のおかげで苦戦した」

「……ああ。人質達と『ノーブルベアー』の奴らは?」

「全員生きている。怪我人も数人でたが、やはり成績が欲しいだけあってやる気を出せば優秀な奴らだ。熊谷はじめ、テロリストは全員捕まえた。今のところ全国の役所に襲撃があったという報告は無い」

「流石に一犯罪組織程度じゃアレは吹っかけだったと思ったほうがいいですかね」

「今はお前が考えなくてもいいんじゃないか?」

「……それもそうですね」

「禊!!」

 今度は末洲舜月と、その後ろから屋敷勝浩が出てくる。

「無事かお前!? ってか羨ましい限りだなぁ!」

「抜かせ。命をベットした上で腹と腕と足を見捨ててようやく掴み取れるんだぜこれは」

「片喰くん元に戻ってる。その言葉選び」

 葵が禊に自分の気付きを伝える。「ああ、これか」と把握したような顔を葵に向けた禊は、そのまま会話を切らないように続ける。

「舜月は……心配するまでもなさそうだな」

「ああ。全員倒したよ」

「けらうのす、だっけか? お前電撃魔法に関しちゃ誰にも負けないしな」

「……やめてくれ禊」

「それでなんで勝浩がいる?」

「宿題提出だ! なんつうか、学校周りが騒がしいからどうしたかと思ったんだが、変な奴らがいっぱいいたからぶっ飛ばしてた!!」

 勝浩は自分の行動理由をさも人間であれば当然みたいな口調で言った。

「やっぱお前バカだわ」

「あっそうだ宿題!! 好宮せんせ!!」

 思い出したように、勝浩は自分の鞄の中からノートと紙類を紫に差し出す。

「時間には遅れているな」

「え」

 紫の言葉が予想外だったのか、勝浩はその場に立ち尽くす。

「フッ冗談だ。そんな死んだ顔するな。お前だって死ぬような思いをしたところだろ?」

「好宮せんせそんな冗談言う人だったっけぇ!!」

 安心したといわんばかりに笑顔になる勝浩の手から紫は宿題を受け取った。

「良かったじゃねえか勝浩」

「ありがとな保食さん!!」

 勝浩は宿題を提出するまでの期限が延びたのが葵のおかげであることに感謝した。

「私は感謝されることをした覚えは無いよ。でも良かったね」

 葵は笑顔を見せた。

「何より、君たちが生きていてくれてよかった」

「良くないわよ。死にかけてるんだから」

 舜月の言葉に反論するように三咲蘭が割って入ってくる。

「アンタのおかげよ片喰禊。私も腹をやられてるんだけど」

「悪かったな。お前がいなきゃ何も出来なかった。ありがとう」

「っ……」

 予想外に素直な禊に、蘭は少し照れる。

「アンタには負けられない。それだけよ」

「そうか」

「相変わらず素気ないわね」

「悪いな。今はあんまものを考えられねえ」

「そうね。早く治療受けてきなさい」

 禊も納得して自分を受け入れてくれる救急車を探し視界を外に向けると、予想外の事態が起きていた。

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