第七章「無謀の騎士」-その4
振りぬいた拳によるノックバックでようやくまともに視界を確保できる。目の前のパソコンとテーブルが跡形もなく破壊されている。先ほどまで俺の前に立ちはだかってきた男が伸びている。
俺は俺で、目の前の男に等しいほどズタボロだった。痛みで意識を失ったり取り戻したりしている気がする。脳に酸素が行き届いていない。遠くから聞こえてくるいろいろと物騒な音が、なんの音なのか考えることを体が拒絶している。
「片喰くん……」
……思い出した。自分の目的、救うべき対象を。いや、救うというより「奪うべき対象」だな。
「さあ保食、行こうか。学校案内はお預けだ」
保食のほうを向き、血だらけの左手を伸ばし余裕を見せてみる。耐え切れずに口元から血が垂れるが、そこはご愛嬌ということで。保食は、俺がぶっ壊した何かに頭をぶつけたらしく、血が出ていた。彼女に結ばれた縄を解くべく、歩く。
「くっ……」
右足が自由に動かない。左足に体重を預けて進む。保食の元にたどり着き、跪こうとする。後ろから鳴る乾いた音に気がついたとき、体にもう一箇所穴が開いていた。
「あがっ……」
「片喰くん!!」
「終わらせない……。私の革命は終わらせない!!」
狂気に満ちた顔で柳が銃を撃っていた。奴は再び意識を失いそのまま倒れる。
「クソ……うけ……も、ち……」
遂に致命傷を受けた俺は、生涯に幕を閉じ意識が消える。
三咲蘭が禊のあとを追い、情報処理室に入ってくる。
「……何よこれ」
惨状を目の当たりにした蘭が呆れたように声を漏らす。
「片喰くん!!」
いろいろなものが壊れている壁の近くで叫んでいる声を聞き、蘭は駆け寄る。そこには壁の真ん中で満足そうに伸びている男と腕と足に縄を巻かれている保食葵、そして体に新しい穴にを作った片喰禊がいた。まず蘭は葵の縄を解いた。
「何があったの!」
「片喰くんが、撃たれて……!!」
慌てる葵を蘭がなだめる。
「このバカ、このままじゃ死にかねない。保食さん落ち着いて。こいつの手当てを手伝ってもらえるかしら?」
「……そうだね」
一呼吸した葵が何かを思い出したように蘭に指示を出す。
「保健室から包帯と止血剤をありったけ持ってきて」
「いや、出血は意識を失うほど酷くはない。どちらかというと内側がボロボロね。何か対策を考えないと――」
「それは大丈夫」
「え?」
葵が搾り出すように言う。
「……『私の魔法』を使う」
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