第六章「名も知らぬ者との遊び」-その5
……対策を考えることは出来なかったからこそ、
――左腕にナイフが刺さっていた。
前腕伸筋群を抉られるかつて無い熱と痛みを訴えるように、腕から紅の水分が滴り落ちる。
「っぐっ!!」
叫びたい衝動を無理やり抑える。自分でもどうしてこうなったかはわからない。あるとするならば偶然。音を立てて自分に飛んでくる虫を払うかのように、自然と腕が伸びていた。生理的判断の側面が、少なくとも首筋に穴を作り、命を終えることを避けてくれた。
驚いていたのは刃物を握っていた方だった。
「なっ……!!」
数瞬の硬直が訪れ、俺に次の手を考える時間が出来た。
「……っ!!」
俺は咄嗟に流れ出た血液を凍らせる。セ氏マイナス十八度にたどり着くことで血液が凍りはじめる。
血液が凍結する珍しい様を見て、男が手を離す。俺は体制を整え、男を右膝で地面に押さえつけたまま上半身を持ち上げ、左膝で男の右腕を抑えた。
「クッソ!! まだ――」
「そこまでよ!」
三咲が横から現れる。ハンドガンを男の頭部に突きつける。観念したのか、兵士は力を抜いた。
「殺せ。俺の負けだよ」
「そうか」
俺は冷酷な印象を与える声色で一言、そのまま左手を首筋にあてる。
「最後に、名前を聞いてやるよ」
「……桑島だ」
俺は左手に魔力を込める。今度は冷静に、相手が失神する程度の電気を作る。笑いながら俺はこの桑島という男に敬意を込めた別れを告げる。
「遊びは終わりだな。おやすみ!!」
コイツはきっと自分が死ぬもんだと考えているようだが、好宮先生にも言った以上、校内で死体を作りたくない。俺は間違うことなく、桑島の意識を刈り取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます