第六章「名も知らぬ者との遊び」-その3
熱を放ち終え、三咲蘭はスコープで体育館を覗いていた。会話までは聞こえないが、何か争いが始まろうとしているということだけは察した。その上で、自分が放った銃弾が向こう側ではさほど相手にされていないという現状に少し寂しさを覚えた。
テロリストに鉛を飛ばすという術を、人を殺すという恐怖を本能的に回避したことを思い出して、内心自身の弱みに触れたような気になっていた蘭は、閃光の後禊が飛び出していったのを確認して、思い出したようにコッキングレバーを引き薬莢を吐き出す。
次弾を撃つ場所を決めるため銃身を動かし下の状況を探っていく。しかし、蘭の耳に別の方角から新たな音が入ってきた。
「……っ足音!?」
蘭は長銃を置き去りにして立ち上がり、ハンドガンを握りパイプを伝い壁に登る。咄嗟に思いついたのが、まさか自分のライバルの男と同じ方法だとは思いもよらないまま、彼女は息を潜めた。
(こっちの建物にまだ人が残ってたのね。でも何者……?)
油断していた三咲に、今度は乾いた金属音のようなものが襲い掛かってくる。三咲は何処かで聞き覚えのあるこの音の正体を探る。家庭で聞く音ではない。普段生活で聞く音じゃない。聞き覚えがあるのは、授業……!?
その答えを出す前に、目の前に飛んできたひとつの球体の何かを見て蘭は察した。
(手榴弾!?)
蘭は慌てて飛び降りる。降りた先には銃を構えた兵士が待っていた。
「そこはさっき使われたからな!!」
言っていることの意味がわからない蘭は、着地してすぐに兆弾の群れを避けるため前転する。まともに体勢を整える時間も無く、そのまま流れるように走り出す。崩れそうな体勢を、魔力を使用して、無理やり起こす。骨や筋肉などに魔力を行き渡らせることで、全体として能力を強化することができる。俗に言う「身体強化」に近い。
爆発音と共に、今まで建物だった岩の破片が飛び散る。蘭の数センチ横をかすめ、先ほどまで彼女が握っていた二零九二式に激突し、割れる。
(逃げなければ……)
「さぁて、楽しもうか譲ちゃん!!」
蘭はひとつ溜め息をついた。そうして、唯一の逃げ道である崩壊した階段へと向けて走り出す。
目を擦り、ほぼ見えていない視界を無理やり確保しようとする。しかし上のほうから強烈な爆発音が聞こえ、思い切り目が覚める。
「屋上……三咲!!」
俺の焦りが一段階上のものになり、走る足に力が入る。
走りながら、さっき熊谷から聞いた話よって繋がった奴らの目的を整理していく。
まず楠本の構想だ。奴に関しては半分被害者だろうが、企てに重要な役割を持っているのは事実だ。学校を襲って保食葵を人質として要求していた。しかし「捕まえる予定ではない」と言っていたことから、保食葵の要求しておきながら実際にはそれ以外のものを欲していたということになる。そこに関して深く考察することに意味はないと感じる。金銭なり権利なりを奪って、自分が優位に立ちたかったのだろう。それがまかり通ると思っていたのだから、正直言って馬鹿としか言いようが無いが、それほどに奴が狂っていたのは感じ取れた。
問題とするべきなのは柳のほうだ。熊谷ら『ノーブルベアー』を買収したのは柳で、その熊谷が「保食葵を捕まえて殺す」ということを口にしていたこと。俺の浅はかな考察では正解には程遠いかも知れないが、まず柳たちが保食を殺してその罪を楠本に着せようとしていることは伝わった。狙いは、保食葵を殺した後の行動、「保食圭造の怒り」を買うことなのではないだろうか。そのまま校内に自衛隊を送りつけ、楠本を殺させる。殺させて……。殺させて……。
そこからの意図は最早本人に聞かねばわからないことかもしれない。
そんな中、一本の電話がかかってきていることに運よく気がつく。舜月からだ。
俺はそのまま通話開始ボタンを押す。
「どうした舜月。用なら早く済ませてくれ。こっちも急いでる」
「屋上で爆発だ」
「知ってらぁ」
「そして学校外で待機していた兵士見たいな奴らがそっちへ向けて進行を始めてる!」
「なら食い止めろ! 人質は全部解放した。後は好き勝手暴れろって伝えろ!!」
「そうか、わかった。禊はどうするんだい?」
「これからラストダンジョンだ。生きてたらまた遭おう」
数秒、受話器の向こうの声が途絶える。
「そうかい。僕の雷霆(ケラウノス)が、彼らを通すことは無い」
「別人格でてんぞ、じゃあな!」
「……ああ。じゃあ、また。必ず!」
急ぎ足の通話が切れる頃、俺は一番近場の階段で4階にたどり着いていた。電話に気を取られていたおかげで、意外と騒がしいことになってることに気がつく。拳銃を抜き壁に張り付いて、音のする向こう側を覗く。
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