第四章「巻き込まれた協力者」-その5
「とりあえず人数計算ありがとな。次はお前の得意なことをやって欲しい」
「私が得意なのは戦術の話と狙撃くらいのものよ」
「そうそれ。狙撃」
電話の向こうから溜め息によってひどいノイズが走る。
「ハァ……言われると思った」
「頼むぜ。かくれんぼの時間が短いほうが、お前も楽だろ? それに体育館を狙撃する位置なら再度隠れる時間は大いにあるはずだ。それとも怖気づいたか?」
「もう存在自体はバレてる、か」
電話の向こうでは今までで一番長い沈黙が流れた。
「わかったわ。協力しましょう。つかまってる人を見捨てるのも、罪悪感あるし。死なれたら立ち直れないかも」
俺は電話の相手がいつもなら乗ってきそうな安直な煽りが、彼女に届いてない様子を感じ取りつつ返答する。
「とりあえず三階に行く。そこで合流してくれ」
「わかったわ」
一言聞こえると早々に通話は切られてしまう。俺は今降りてきたばかりの階段を再び上りだした。
禊が三階に上ると、蘭は静かに待っていた。
「なんで三階なの?」
「誰が敵はがってるってわかりきった橋にど真ん中から突っ切ってやるか」
そう言うと禊は、窓を開けた。
「世界一極太な宇宙一怖い綱渡りだ」
「ジョークは三点だけど、方法としては六十点てところかしら」
蘭は突っ慳貪に返した。片喰禊は無視することで自分の冗談が下手と言う事実をごまかして、そのまま窓から飛び出した。
「俺から先に行く。窓だけ閉めてから来てくれ」
禊は近場にあった、何の目的で存在するのかも良くわかっていないパイプを掴んで下りていった。音を立て相手に気づかれぬよう、打ちつけられた金具を頼りに連絡橋の平らな屋根に着地する。連絡橋の屋根は屋上のようになったものではく、また各棟から見たとき、連絡橋側に窓も存在しないことから、屋根の上は死角になりやすい。二階から直接連絡橋を渡るよりも見つかる危険性は低い。
蘭も禊の到達を確認した後すぐに外へ出て、足を金具に引っ掛けてから窓を閉める。片喰は彼女に手を伸ばし小さく声を漏らした。
「つかまれ」
「えっ」
蘭は予想外だったのか少し驚いたような表情を見せる。
その驚きは三咲蘭本人の動きを鈍らせるには十分だったらしく、中途半端に手を取るか取らないか躊躇った。ライフルを抱えていることとあいまって、体制が崩れ、体が重力に逆らえず傾いていく。
「あ……」
咄嗟に片喰禊は彼女の手を取る。
「ゆっくり引くぞ」
「え、ええ」
「音を立てるなよ。いくぞ。せーのっ」
禊は彼女の体を引き上げる。
「手ぇ離していいぞ」
「え……あっ」
蘭は少し混乱していた。自分が屋根の上に着地していることに気がつくと、パイプを引っつかんでいた手をやっと離す。それを見て禊が唆す。
「良かったな。ここなら落ちても死にはしなかっただろうが、打ち所が悪けりゃ歯が欠け落ちてたところだぜ」
「そう……ね。ありがとう」
「わかったからとっとと伏せな。ここも完全な死角ってワケじゃねえんだ」
「ええそうですね」
蘭は拗ねてしまった。しかし、状況が状況なのですぐにそれどころではないと思い、別の会話をしながら匍匐前進を始める。
「ところで、どうして防弾ベスト持って来なかったのよ。まあ私もだけど」
「焦ってたからな。時間無かった。余計な音立つと厄介だし無きゃ無いでいいかなって」
蘭は溜め息をついた。
「そう」
禊は蘭の言葉を遮るように手を出し、人差し指を立てる。
「足音だ」
二人は前進を辞め、屋根に耳をつけて連絡橋を渡る人の足音を聞く。向かい合った姿勢でそのままハンドサインで会話を交わす。
(敵、七?)
(いや、八ね)
(把握した、この場で少し待機)
(了解)
二人は足音が過ぎ去るのを待った。兵士達がものの数秒で連絡橋を渡り終えたのを確認した二人は再び動き始める。
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