第四章「巻き込まれた協力者」-その4

 上階で鳴らされる足音から、奴らが身を翻して帰っていくのがわかる。どれだけ過大評価を受けているのかと、俺はむしろ相手の慎重すぎる姿勢に敬意を表したいとさえ思えた。

「奴ら相当だな。慎重さから伺える上の人間もそうだが、それにきっちり従える部下。脳みそがイタリアンマフィア全盛期に取り残されたような輩かと思っていたが、奴らインテリヤクザも甚だしい」

 一階から普通棟を見て、視認できる範囲に人がいないことを確認した俺は、想定される兵力の数を確認する。

(捕まってるのが四十人弱。拘束してるにしろそれだけの人数だ。優れた兵でも見張りを五人くらいで回すくらいは慎重であるはずだ。後は体育館の警備の数だな。この辺は三咲に聞いたほうがいいか)

 とりあえず俺は一階家庭科室で予定通り五分ほど時間をつぶしてから、三咲に連絡をする。する。する。する?

「ワァオ」

(気づいた。俺あの女の連絡先持ってなくね?)

 やってしまったという気持ちから、俺は頭を抱えた。三咲に協力をしてもらうことで状況を少しでも良くしようと考えていたが、あてが外れてしまい再び自分ひとりでどうにかしようと考える。更に三咲にも連絡をすると言っておきながら悪いことをしたと感じ、せめて自分を探しになど来ず、自分ひとりで生きながらえたいなら是非そうして欲しいと思った。

 しかし、以外にもその期待か不安かわからぬものを裏切るように、着信画面が表示された。

「なんで俺の番号を知ってるんだ?」

「学級委員から緊急の連絡用にって、一年の最初の頃に聞いたじゃないの」

「そんなもん保存してるとはな。俺は今の今まで忘れてたぜ」

 電話の向こうの声は少しむすっとした印象だった。

「どうでもいいけど、この落とし前どうつけてくれるのかしら」

「奴らよりお前の方が、よっぽど極道に向いてそうな台詞だな。さて本題だ。まず状況整理だ。どこまで知ってる?」

 俺は自分の中にまだ冗談を言う余裕があることを確認しながら、三咲と情報共有する。

「とりあえずネットに流れているような情報はちょっとだけ確認したわよ。狙いが保食さんなんでしょう?」

「そうだ。お前ら学級委員と文実、あとは教師で四十人弱は拘束してる。どうせカメラ回して中継するつもりだろうから、環境を考えても体育館にいると考えている」

 三咲は数秒ほどの沈黙の後、その間で出した回答をする。

「理解したわ。直接人質を見るのに多く見積もって五人、入り口や窓の警備で……あの広さなら十人ってところかしら」

「条件をふたつ加えてやる。奴らは俺一人に対して四人の戦力を送り込んできた。しかも更に敵がいるとわかったらそそくさと帰りやがった。相当俺らを高く買ってるのと同時に再度人を増やして攻めてくる余裕があるってことだ。あと、他の教室にやつらはいない。既に一箇所に固めてショーの準備を始めてると見るべきだ」

 電話の向こうから再び短い沈黙が聞こえた。

「……そうね。全部本当なら体育館内に三十人の兵士は覚悟したほうがいいわね。人質の内訳だけど、学級委員は全学年三クラス二人ずつで私除いて十七人。文実は各クラス一人で計二十六人。教師陣の多くは昼食に出払っていたみたいね。そこの内訳はわからないけど、超魔核の先生は五人前後しかいなかったと思えるわ」

「随分甘いセキュリティだこと。詰められても文句言えねえわ」

「兵士の錬度は?」

 より正しい結果を出す為に、彼女は俺に更に突っ込んだ質問をしてくる。

「相当だ。『ノーブルベアー』って組織だ。プロ意識の高さと同時にかなりやれると思う」

「それでいて慎重なのでしょう?多く見れば五十人はいそうかしら」

「クソ喰らえだな」

「その通りよ。こんなの相手に私に何させようってのよ」

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