第三章「革命家は笑う」-その1
俺達は調べられる情報を可能なかぎり入手した。SNSを調べた結果、ある程度情報が出回っているようだ。また、新改革社会党は日本に対して声名を発表したという。
「『超魔核による新たな自衛隊組織』か。そのための革命ってのは最早本末転倒な気がするんだがな」
「超魔核を普通の人が支配できるなら超魔核は劣等種ということになるよね」
「屁理屈を言えばそうだな」
「きみに屁理屈とか言われるのはちょっと気に入らないな」
葵は少し不満そうな声を漏らす。
「そりゃないぜ」
適当にごまかすと俺は話を続けた。
「まぁいいか。とりあえず此処を離れよう。武器庫を目指す」
「うん」
俺と保食は行動方針を決め、その上で獲得した情報の確認を行なう。分かってはいた事実だが、俺には彼女が今どういう感情の中で錯綜しているのか理解することは出来なかった。
「奴らは既に学校の進入口全てに人体感知センサーを取り付けている。安易に進入すれば警告が鳴り、そうすれば人質はズドン。対策をするのには相当な時間がかかる」
「全ての人質と交換で要求してきたのは私の身柄だったね。私を人質にとって自衛隊にいろんな条件を飲ませようとしてるのね」
彼女の顔は想像以上に混じりけのない、冷静な考察をする淡々とした表情だった。命を差し出せといわれてなお真剣に向き合う彼女に披露するジョークを、俺の引き出しには持ち合わせていなかった。
「おそらく集められているのは体育館だ。数は四十人いないくらいか。学級委員と文化祭実行委員の半数程度と教職員だろうな。昼の買出しに出ていて幸いな奴もいたろうな」
「武器を取ってからどうするの? 私の身柄の要求は一時間後、警察や自衛隊とかが対策を立てても間に合わない。私が逃げたら今つかまってる人は殺されちゃう。逃げきってもあの人たちを救えないし、立ち向かうには人手が足りない」
保食葵が痛いところを突いてきた。実際今の俺はこの先のことをまだ考えていない。究極を言ってしまえば俺は俺一人が助かることを最優先に考えている。
「着いてから考えよう。これ以上時間をロスする方がマズい」
俺は半分ごまかす形でこの言葉が出た。
「そうだね」
葵は察してかは知らないが簡単な返事を返した。俺は大して気にも留めず、パソコンの電源を落とし、出入り口の扉の方へと向かう。
扉の窓から外を覗く。視界の中では人間を発見できなかった。しかし俺は、耳によってそれ以外の情報を得ることが出来た。
「……ッ! 階段を上る足音だ」
その音を聞いた直後、俺は葵の元へ行き手を取ると、デスクの下へと飛び込んだ。
「念のためだからな。これで十分なはずだ」
俺は小さく呟くと、葵に喋らないように人差し指で指示を出した。俺の中で、また時間の進みが徐々に遅くなっていく。聞き飽きた心臓の音と向き合う時間が、俺の脳裏へと恐怖を少しずつ刷り込ませていく。また、下から徐々に近づいてくる無機質な音が俺を焦らせていく。
数十秒後、扉が開けられる。
(マジかよ。長居しすぎたか、クソッ)
此処まで来ると、今の俺には見つからないように祈ることしか出来ない。俺達は息を呑む。
「お嬢様!」
(お嬢様を探してるのかい、随分と丁寧な呼び方じゃねえか。さっきまでとおお、ち、が、い……?)
俺には理解が追いつかなかった。声は今までの奴らのものではない。誠実さを感じるものだった。とてもじゃないが、ノーブルベアーの輩の台詞とは思えない。こちらを誘い出してるとも思えるが、それにしては素直すぎる。
――だが、しかし。
――迷っている余裕はない。
以外にも無警戒の足音が近づいてくる。可能であれば魔法は使いたくない。拳を握る。机の下に隠れていることなど、見れば一瞬で気づかれる。その瞬間を狩る。意識を刈り取ることが叶わなければ、その時にのみ魔法を使う。使うのは電気、ショックを与えて気絶させる。パターンさえ作れれば良い。そこを外れてはならない。外れれば負ける。
――必ず。
――必ず仕留める――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます