第一章「忘れ去られた防災の日」-その5

 廊下での一件を彼女に説明すると、彼女は笑った。

「それで『切り捨てられた』なんて言ったのね。仲良しなんだね」

「そうだな。っと着いたな。ここが食堂だ。食堂自体は開いてないけど、隣のコンビニはやってるだろ」

 俺は学校内部に備え付けられたコンビニが開いているか、疑心暗鬼に包まれながらコンビニへ向かっていく。

「空いてなかったらごめんな。外に出ることになっちまうわ」

「大丈夫だよ。ああでも、この辺で美味しいお店とか知ってるの? 少し興味あるな」

「うーん……。人が少なくて落ち着ける喫茶店なら知ってるけど」

「本当に!? 是非今度連れていって!!」

「あ、ああ。……コンビニ、開いてるな。良かった」

 何故か自然と女の子と遊びに行く約束を取り付けてしまったことに、冷静になって思い返してみたところで恥ずかしくなった。赤い顔をごまかすように少し早足になったのが自分でも分かる。

「???」

 キョトンとした表情で、保食は俺を見た。俺は咄嗟に顔を逸らし、上擦った声で無理やり話を逸らそうとした。

「そうだ! 今日は特別な場所を見せてやるよ!! 他のヤツには内緒でな!!」

「え? ……うん。わかった」

 保食は、これまた不思議そうな顔をして頷いた。


 コンビニで食事を購入した俺達が向かったのは屋上、本来封鎖されていて、ドアは古式の南京錠で塞がれている。古式と言ってもドアや鍵の金属が文明の発展で硬くなっているらしく、あえて電子機器に頼らない方法でこの場所は管理しているようだ。去年の冬、俺はたまたま鍵を拾った。何故かは分からんが、鍵のスペアを使っているらしく、南京錠自体は交換されていない。管理の甘さはどうかと思うが、おかげで自分勝手にこの屋上に出入りしている。

 外を見た保食が声を漏らす。

「すっごい綺麗! こんなに周りの景色が良く見える場所あったんだね!!」

「ここのことは秘密にしてくれよ? 俺以外にここのこと知ってるのはお前だけなんだ」

「わかった。でも、どうしてそんな場所につれてきてくれたの?」

「そうだな。俺のことを『優しい』って言ってくれたから、かな」

 俺の顔はきっと夏の日差しにやられている程度ではすまないほどに真紅に染まっていた。

「そっか。それじゃあご飯にしよっか!」

「そうだな」

 適当なところに座ると、俺達はさっき買ってきた袋の中身を広げた。お互いが思い思いに買った弁当をあける。中身は同じ、から揚げ弁当だった。

「お、保食もから揚げ弁当か! 結構うまいんだよな、これ」

「うん。料理作るのがめんどくさい時とかは、これで済ましちゃうこともあるかな」

「へえ。料理とかするんだ」

「まあね。家に一人でいることとか多いから、自炊は結構するかな」

「さっきの使用人ってのは?」

「あれはあくまでお父さんの使用人だから。メイドとかがいるわけでもないしね。今日は迎えに来るらしいから連絡したけど」

「ほう、そんなもんか。俺もここに来てから一人だから暇なときは料理するようになったな」

「片喰くんも料理するんだ。男の人が料理するなんて意外だな。何作るの?」

「んまぁ気が向けばチャーシュー煮たり、良く作るのはカレーとかパスタとか簡単なのばっかだよ。でも基本は味噌汁かなぁ」

「そっか。……食べよっか」

「そうだな」

 会話を切ると、俺達は弁当を食べ始める。

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