第9話大栄家

闇は、超人的な体つきになり孝、鏡、静香と母親のねねを全員抱き抱えて自宅の蔵に戻った。


「お前、何者だよ?」


「毎日退屈しのぎに筋肉を鍛えてただけさ。孝の父さんに合気道を教わりたかったな。間に合わなくてすまなかった。」


孝は、父親の首を持ってきた。


「いいえ、父は喜んでいます。」


静香は、闇にお礼を言った。


「姉さん、話せるようになったんだね…。」


孝は、静香を見て言った。


「わたしからもお礼をします。」


ねねが、闇に土下座した。


鏡だけは、泣きながら闇を睨んでいた。


「何が、闇よ!こんな広い蔵にいて!」


鏡のいう通り蔵は広く月明かりに照らされていた。


「そうだね。士族の幽閉と言っても三度の飯は貰える。ただ孤独だけが敵だった。暫くここで皆で住もう。要もうちにはなかなか手は出せないはずだ。」


「敵討ちはする。」


静かに、孝は呟いた。


「協力する。」


闇は、哀しげな顔をして言った。


次の日から、闇を相手に孝は刀を振るった。


「なかなか筋がいい。」


闇は、孝の剣さばきに才能を感じた。


「そうか。」


「あぁ、合気道を教えてくれ。」


「まだ、免許皆伝じゃない。」


「それでも良い。」


一日で闇は、合気道を覚えてしまった。


「お前は、天才だな。」


孝が闇に言った。


「飯の調達してくる。」


闇は、夜の闇にまみれて畑の野菜や豚を盗んだ。


ひとときの安らぎを全員で分かち合いたかった。


ねねが野菜を切り、静香が肉をさばいた。


鏡は、夢遊病のようになってしまった。


「鏡!ちょっと来てくれ!」


闇が鏡を呼んだ。


「何よ?」


「砥石で兄さんと俺の刀を研いで欲しい。」


「…。しない。」


「鏡!誰に助けてもらったと思ってるの?」


ねねが、鏡を叩こうとしたがその手を闇が止めた。


「俺が、頼んだのが悪かった。」


「でも…。」


「いいんだよ。ねねさん。怖いを思いをしたんだ。刀が恐いのは当たり前だ。」


静香が、代わりに刀を研いでくれた。


鏡は、夜になると魘されている。


可哀想にと闇は思っていた。

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