第2話 始まりの町は壊滅状態
AOFの世界に飛び込んで最初に目に入った景色。
曰く、始まりの町だと思うんだけど……何というか、大渋滞だ。さらにはあちこちで怒声が聞こえる。
……なんか、イメージと違う。
最初なんだから、もっと楽しそうというか、期待を持たせる感じとかがあっても良いと思う。
それなのに全体的に町が殺気立っているというか悲壮感に包まれているというか、崩壊一歩寸前の空気が漂っているように思える。
ひとまず、近くに居たおっちゃんに事情を聴いてみるか。
「あの、すみません。街の雰囲気がすごくその、あれですけど、何かあったんですか?」
「おまえさん、外来人か?」
あ、なるほど。プレイヤー=外来人って呼ぶのか。
「はい、今日初めて来ました」
「あーそうか、ならなんで町がこうなってるのか分からなくても仕方ねぇか。
まぁ、一言で言うとお前たち外来人たちのせいだよ」
もう疲れ過ぎて怒るに怒れない感じで説明してくれた。
「もう3年も前だったか。聖王教会からお触れがあってな。
『昨今の増加の一途を辿る魔物対策に、外の世界の勇士たちを召喚するゲートを開いた。ついては、その者たちに協力して人類生存圏の拡大に努めること』
とかなんとか。
最初聞いた時は、これで魔物による畑の被害も減るし、隣町に移動するのも安全になるって喜んだんだ。だが、蓋を開けてみたら街の住人の何十倍もの人が押し寄せて来た訳だ。
初めの頃はパニックだな。
街中は人であふれかえり、外も魔物よりも外来人の方が多いし、草という草は刈り取られる始末。
幸いすぐにほとんどの奴らが隣町に移動していったけど、それでも1年くらいは後から後から新しいやつらが来るもんだから、店の商品はずっと品切れ状態。それに怒ったのか何度も暴動まがいの騒動が起きたりもしてな。
隣町に助けを求めようにも、向こうも似たり寄ったりらしいしな」
あ~、つまり突然難民が大挙して押し寄せて来たようなものかな。それは色々と破綻しても仕方ないよね。でも、なら、
「僕らが犯した問題なら、元通りとまでは行かなくても、せめて復興のお手伝いくらいはしないといけないよね」
そんな僕のつぶやきが聞こえたらしく、
「お、良いこと言うじゃねぇか。じゃあ色々と頼もうか。まずはいっちょ俺ん所の畑の手入れを手伝ってくれよ」
さっきの疲れた顔もどこえやら。僕の肩に手を置いて良い笑顔をするおっちゃん。
いや、ちょっと待って。この手は逃がさないって意思表示だよね。
ポンッ!
【クエスト「始まりの町カウベの復興支援」を受けますか? [はい/いいえ]】
お、クエストが出て来た。
なるほど、こんな感じでクエストが発生するんだ。ひとまず[はい]を選択。
するとどうだろう。待ってましたとばかりに近くに居た人たちが集まってきた。
「お、なんか面白そうな話してんな。じゃあうちの鍛冶の手伝いも頼むわ」
「わたしの所もお願い。ポーション作るのに人手が足りないのよ」
「待って、うちの道具類も軒並み全滅なんだから」
「採取されてきた薬草の品質が悪すぎ。薬草と毒草をいっしょくたに持ってこられても困るのよね」
「孤児院の子達も薬草採集とかで日銭を稼げなくなってるから、そっちも何とかしてもらわないと」
「焼き手が足りなくてパン屋の親父が倒れたらしいぞ」
わいわい、がやがや。
収拾がつかなくなりそうだったから僕は腕を振り上げつつ大声を出した。
「ちょっと待った!そんなに一度に言われても困ります。僕は一人ですし、すぐに全部は無理です」
ちなみにAOFの世界ではリアル時間で6時間で1日が経過する。
なので、ログアウトして翌日同じ時間帯にログインすると4日後になる。だからどうやってもこっちに居られない時間が長くなる。
僕にも普段の生活や学校もあるし、ずっとINし続けるのは不可能だ。
なら、どうするか……うん、一人が無理ならみんなに手伝ってもらうしかないか。
「えっと、街の復興のお手伝いをするのは構いませんが、皆さんにも協力をお願いしたいです」
「そりゃまぁ俺らの街だ。協力できる事があればするが、何をすればいい?」
「ではそうですね。今の話だと外来人がやたらめったら商品を買いあさっていて困ってるんですよね。ならまず当分の間、外来人に何も売らないでください」
あ、皆呆れた顔になってフリーズしてる。
最初に話しかけた農家(?)のおっちゃんがいち早く復帰してくれた。
「お、おいおい、兄ちゃん。そんなことして大丈夫なのか?」
「はい、その代わり、採取の仕方を教えたり、道具の貸し出しやものの作り方の伝授をお願いします」
「つまり、材料を自前で持って来させて、加工もそいつらにやらせるってことか」
「はい。で、道具のレンタル料や授業料って名目で材料や成果物を納めて貰えば、皆さんにもプラスになります。あと作り方に関しては基礎だけ教えることで、皆さんの作ったものと差別化も図れると思います」
僕がそう説明すると、みんな少しずつ興味を持ってくれたみたいで目に活力が戻ってきてる。
「はいはいっ! うちは薬草を扱ってるんだけど、薬草採集って基本的に地味で面倒って印象が強いみたいなんだけど、それでも来るかしら」
「大丈夫だと思います。
というのも、この街に来た外来人の大半は(チュートリアルみたいに)色んなスキルやノウハウを学びたいって人が大半です。そうじゃない人はすぐに次の街に向かうでしょうしね。
だから、元手不要、やり方伝授、関わった人たちと仲良くなれる。この3点を全面的に押し出していけば、食いつく外来人は多いはずです。
後はそうですね。少しやってみて興味を持ってくれた人には中級の知識を餌に弟子入りさせるのも有効ですね」
「あ~確かに。やらたと教えろ教えろってしつこい奴らが居たな。礼儀がなってなかったんで追い返したが」
まぁ居るよね。
「あと、外来人ってのは周期的に活動する人数の多い日と少ない日があるらしいな。その点はどうする。
ものづくりなんかはともかく、食堂や農業みたいに毎日安定して人手が必要なものもあるだろう」
多分、日中は少なくて夕方から深夜に掛けて多くなってるんだと思う。
ただそれを伝えても意味が無いし、僕が他のプレイヤーに出て来いっていうのも無理があるよね。
「それについては、さっき孤児院の子供たちが困ってるって言ってましたよね。その子達に協力してもらいましょう。
外来人と一緒に子供たちにも教育の一環として手伝ってもらうんです。」
「おいおめぇ、がきんちょどもに働かせるつもりか?」
若干、おっちゃんの顔が険しくなった。でも、
「子供が親の手伝いをするのは当たり前のことでは? それに、子供の頃から鍛え上げれば、将来が楽しみじゃないですか」
現代ならともかく、自給自足に近い社会なら小さい頃から仕事を覚えさせるのはよくある話のはず。
だからこの理屈が十分通るはずなんだけど、どうだろうか。
じっとおっちゃんの目を見ると、僕の意図を組んでくれたように頭を掻いた。
「ん~、ははっ、まぁそうだな。この街の子供は俺たちのガキみたいなもんだな。
いいだろう。家も継がずに飛び出していった馬鹿息子の代わりにビシバシ鍛えてやろう。みんなも良いだろ?」
「すぐにはモノにならんだろうが、まぁしゃあないわな」
「うちは猫の手も借りたいくらいだ。むしろ助かるよ」
うん、この街の人たちは優しい人が多いみたい。
血もつながらない子供たちの為に怒ったり喜んだり出来るんだから。
なら僕も頑張らないといけないね。
「ここに居る人だけじゃなく、近所の人や仕事仲間にも伝えてください。
賛同してくれる人だけで十分ですので街全体でやっていきましょう。
外来人には、店に来たときに直接伝えるか、冒険者ギルドに張り紙を出させてもらいましょう」
「おし、じゃあひとっ走りして皆に知らせてくる」
「私も冒険者ギルドに張り紙を出してもらえるようにお願いしてくるわ」
そういってその場は解散していく。
うん、最初お通夜モードだったけど、大分活気が出てきたみたい。
よし、じゃあ僕も今の話を孤児院の方にしてこようかな。
そうして僕のVR生活は街の復興という、ファンタジーお馴染みの剣と魔法からは離れてスタートした。
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