第3話 復興計画立案
僕はまずはということで、孤児院の場所を聞いて移動を開始、したんだけど。
うわっ、めちゃめちゃ人が増えてきた。
さっきまでが都会のスクランブル交差点だとすると、今はどこかのお祭りとか通勤ラッシュとか、そういうレベル。
つまり、目的地に移動するだけで一苦労だし、子供や土地勘の無い人は100%迷子になる。
孤児院の子供たちに協力してもらおうと思ったけど、この人の多さを一時的にでも移さないとだめだな。
さっきの案も1人で一度に面倒見れるのは多くても20~30人がいいところだろうし、50店舗が協力してくれたとしても一度に1000人が良い所だから、焼け石に水だ。
そんなことを考えている間にも人混みに流されて孤児院からは離されてしまってる。……どっちに進んでるのかよく分からないけど、今のうちに考えを纏めておこう。
「ん~、いっそのことここに居る全員が長期間参加するような一大イベントでも立ち上げるか。
って、さすがにそれは僕のキャパをオーバーしすぎてるし、どっちかっていうと領主様とかがお触れを出したりするレベルだよね」
「おや、呼んだかね?」
「ん?」
突然声を掛けられたかと思ったら、いつの間にか目の前に恰幅の良いタヌキ親父が立ってた。あ、タヌキの獣人って意味ね。
「おじさんは誰?」
「私の家の前で私の事をしゃべっていながら誰とは失礼だね」
辺りを見れば、いつの間にか大きな屋敷の前に流れ着いてたみたいだ。
「ということは、領主様?」
「いかにも」
鷹揚にうなずく姿は確かに包容力もあって(物理的に)、頼りになりそうな人で領主っていうのも分かる気がする。
折角だから相談してみるか。ダメで元々だし。
「あの、領主様。いま30分ほどお時間頂くことは可能ですか?
この逼迫した街の問題を解決する為に提案させて頂きたい事があります。
上手く行けば以前よりも街を豊かに出来ます」
……半分はったりだ。まだどうするか明確に決まってないし。
領主様のつぶらな視線が僕に注がれる。
1分?2分?いや、実際には10秒くらいだったのかもしれない。
真剣だった瞳がふっと和らいだ。
「いいでしょう。立ち話もなんです。なかにお入りなさい」
そう言って館の中に入っていく後ろ姿を、冷や汗を拭いながら付いて行った。
通されたのは応接室、かな。
すごく落ち着いた調度品で統一されていて持ち主の在りようを示しているようだ。
席に着くとすぐにメイドさんがお茶を運んできてくれた。
リアルメイドかぁ。さすがファンタジー世界だね。
「では改めて。ようこそカウベの街へ。領主のガボン・ポコだ」
「外来人のテンドウです。このたびは貴重なお時間をありがとうございます」
「うむ。まぁそこまで畏まらんでも良い。早速だが、何か提案があるということだったね」
出されたお茶を一口飲んでから、さっき思いついた事を口にした。
「はい。僕の提案は大きく2つ。
1つは街に溢れている外来人を街の外に出すこと。
もう1つは出した後の荒れた街を復興させる為の案です」
「ほう、私を近年悩ませ続けてきた外来人の氾濫を何とか出来ると言うのかね。
言っては何だが、彼らは自己中心的だ。こちらの命令もお願いも無視されるのがおちだぞ。
一体どうするというのかね」
「はい、それは……クエスト、もしくはイベントを開催しましょう」
「イベントか。それで彼らが食いつくと?」
「もちろん、内容にもよりますが、まず間違いなく」
この街の雰囲気からしても、通りの状況からしても、クエスト不足なのは明らかだ。なら皆の興味を引くようなものを掲げれば、きっと動いてくれるはず。
その為にはプレイヤー全体、特に先に進んでる人たちも巻き込めるものが良いよね。
領主様はまだ納得しかねる顔で僕を見つめている。
「それで、具体的にどのような事をするのですかな?」
「はい、それは、彼らに彼ら自身で彼ら用の街を創ってもらうんです」
「街作り……ですか。はは、また随分大きく出ましたな」
良かった。ここで「話にならん!帰れ!!」って言われたら話が終わる所だった。
まずは第一関門突破、という所かな。
まだ侮られてるのは仕方無いけど。
「はい、幸い人手は余っていますから」
「動かせるのですか? こう言っては失礼ですが、この世界に来たばかりのあなたに、それほどの人脈も牽引力も無いとお見受けしますが」
「動かすのではなく、動きたくなるようにするんです。その為にも街ぐるみの大規模クエスト、という形を取らせて欲しいんです。そういうものに惹かれるのは外来人の
日本人はお祭り好きだしね。「祭りだー」とか「火事だー」とか叫べば、どんどん集まってくるはず。
「ふむ、そうですな。クエストを発行するくらいなら問題ありませんよ。
ただ、報酬はどうします?
残念ながら街にはそんな予算はありませんよ。
それに家を建てるにしても資材もどこかから調達する必要がありますな」
確かに、資材の問題があるか。
いや、魔物や薬草はいくらでも生えてくるんだから資材も行けたりするかも。
「例えば、魔物の森から木を伐りだして来るのはどうでしょう。
そこなら幾ら伐採してもすぐに再生してきたりしませんか?
また、素材になる魔物を狩ってきてもらうのもありでしょう」
「…確かに、東の森でそういう報告は聞いています。
ですが魔素が濃い場所は往々にして魔物も1、2ランク強くなる傾向があります。
残念ながらこの街に居る外来人では伐採するどころではないでしょう」
「なら隣町とか国中の外来人に呼び掛けましょう。
クエストに飢えているのは他の地域も同じでしょうし。
それに、この街で上手く行けば良いモデルケースとして、他の街に恩を売る事も出来るんじゃないでしょうか」
「ほう。他の街に恩を、ですか。それはなんとも」
おっ、少し興味を持ってくれたかな。
『最初の街 → 弱小 → なめられがち、もしくは貸しがある』
かもしれないと思ってみたけど当たりだったかも。
もう一歩押せば行けるだろうか。
「これで人手と資材は目途が立つでしょう。
後は報酬についてですが、開拓した土地を家1件分ずつくらいに区画分けして、参加した人たちに無償で渡してしまいましょう。
個人でっていうのは無理がありますからギルド単位とかになるかと思いますが」
「は? いやいやいや、無償って。それでは結局、我々地元民はあなた達の為に苦労させられるだけでほとんど得が無いでしょう」
うん、リアルだとそうなんだけど、ゲームだと事情が変わるんだよね。
「目先の事だけ考えるとそうでしょう。
では、10年後、20年後は?
断言しますが、外来人で地元民と結婚する人はまず居ません。
また、今居る人達で10年(リアルで2年以上)後もここに居座る人は3割も居ないでしょう。
結果として整備された街が丸々手に入ります。
10年もあればこの街の人口も増えて今のままじゃ収まりきらなくなることを見越せば、12分に価値があるのではないでしょうか」
「……ふっ、はっはっはっ。未来を見据えて動けとは。いやはやお若いのによく考えてらっしゃる。
良いでしょう。まだまだ荒い部分は多くありますが、この話、乗らせて頂きましょう。
とは言っても少々話が大きすぎるので、他の者とも協議して詳細を詰めて、そうですな。
クエストを発行するのは早くて6日後くらいにはなるでしょう」
「いえ、十分過ぎるほど早いと思います」
多分リアルだと数か月は計画だけで掛かる話だろうし。
それに最初の時に比べて、領主様の表情が大分和らいだ気がする。
少しは信頼されてるって思っても良いのかな。むしろ、どこか楽しそう?
「それにしても、君は変わった人だ。
いままでここに訪ねて来た外来人は何人も居たが、みな『困っていることは無いか。クエストは無いか』と求めてばかりでね。
クエストを新たに作らないか、なんて提案してきたのは君が初めてだ。
君がここに来る前にも新規にクエストが発行されたみたいだが、それも元を質せば君が発起人だそうじゃないか。
今後も色々と動き回ってくれるのを期待しているよ」
ポンッ!!
【称号「クエストの仕掛人」を取得しました】
……はい!?
なりゆきで色々と動いてたら変な称号を貰いました。
面談の途中なので詳細はあとで確認すれば良いかな。
それから領主様と雑談を交えながら最近の街の状況を聞いていたら、あっという間に2時間くらいが経過していたので、そろそろお暇しよう。
「今日は貴重なお時間をありがとうございました」
「こちらこそ、とても有意義な時間でした。また何かあればいつでも気兼ねなく訪ねてきてほしい」
「はい、今他にも1つクエストを抱えているので、それ関連でお力を借りるかもしれません。その時はまたよろしくお願いします」
「うむ、この街の為になることなら大歓迎だ。期待しているよ」
「はい、それでは失礼します」
領主様と握手を交わして家を出ると、外は相変わらずの人混みだったけど、多少はマシになったかな。
多分街の外に出かけたんだろうね。
って、そうだ。いつの間にか都市開発シミュレーションみたいな事してたけど、本来は魔物あり、魔法ありの冒険を楽しむゲームだったよね。
ん~、なんか今から街の外に出て魔物退治って気分でもないし、今日はログアウトしよう。
そうして1日目は街の外に出ることなく終わっていった。
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