VR世界は問題だらけ

たてみん

第1話 置き場がない

カラカランッカラカラカランッッ!

デパートの特設コーナーでやかましい程にハンドベルの音が鳴り響く。


「お、お、お、おめでとうございます!! 特賞、みごと特賞当選です!!!」


司会の男性が、なぜか愕然としながらも声高らかに叫んでいるのを、僕、橋渡 天道はしわたし てんどうは他人事のように眺めていた。


「特賞の商品は、最新式VRマシンARE・Xと今話題のソフトAOFアルターオリジナルフロンティアのセットです!」

「「「おめでとうございます!」」」

「(うわ~)」


フルダイブ型VRマシン。

約20年前に開発された初期型は販売価格800万円。

そこから改良、量産、コスト削減などが行われ、現在では簡易版が20万前後、通常版が50万円前後まで値下がりして、ようやく一般家庭でも普及しだした。

ARE・Xはもちろん通常版で、ソフトの値段も考慮すると合計60万円近くなる。因みに1等は海外旅行1泊2日ペアチケットなので、15万円程度。それを考えるとこのスタッフの反応も分からなくはないけど。

もう訳が分からなくなった感じのガラガラの担当をしていたお姉さんに手を掴まれて握手しつつ、


「(2等の松坂牛の方が良かったとは言えない雰囲気だな~)」


と内心、ため息をつくのだった。

一方、舞台裏では、


「(おい、特賞の玉は入ってないはずだろ。これじゃ大赤字だぞ、どうすんだ!)」

「(知らないっすよ。大方黄色の玉に混じってたんじゃないっすか?)」

「(そうだ、今からでもあれは黄色だったと言えば)」

「(あそこまで大っぴらに宣言した後でそんなことしたら、ネットで何言われるか分かったもんじゃないっすよ)」

「(く、あのガキ、そこは空気を読んで辞退するところだろ。むしろ頼むっ、辞退してください!)」


というやり取りがされてたとか。



それから3日後。

件のVRマシンが届けられ”設置業者によって”あれよあれよと言う間に設置された結果、6畳一間の僕の部屋はクローゼット、PC机、キッチン、冷蔵庫、そしてVRマシンで満たされた。

……うん、布団を敷くスペースが無くなりました。

というのも、最新式のフルダイブ型VRマシンって安楽椅子をカプセルで包んだような形状で、シングルベッド並のサイズがある。

簡易版なら安楽椅子のみなのでそこまで場所は取らなかったんだけどな。

「だから嫌だったんだよ」とは今更言えないし、今日からVRマシンで寝起きするしかないかな。

幸い座り心地は悪くなさそうだし、フルフラットだし、もしかしたら布団よりも寝心地良いかもだし。

そう考えると前向きになってきた。

よし、折角手に入ったんだし遊んでみようかな。


VRマシンに乗り込んで各種安全ベルトとヘルメットを着用。安全ベルトは以前、VR使用中に暴れて(寝ぼけて)怪我をする事故が多発した為、フルダイブ型のVRマシンでは体を固定することが義務付けられている為の措置だ。

気分は戦闘機のパイロットだね。

よし、これで、装置起動。すると眠りに落ちる時のような浮遊感と共に意識が切り替わり、気が付くと薄暗い空間に立っていた。


【ようこそ。私は本システムの統括を行っている管理システムのゼロXです】

【これよりAOFの世界にお連れするに際し、個人登録および、幾つか質問をさせて頂きます】


頭の中に直接響くように中性的な声が聞こえる。


【まずお名前を教えて下さい】

「テンドウ、でお願いします」

【それではテンドウ様。これからする質問は深く考えず、思った通りに回答ください】

「わかりました」

【では1問目。あなたは規則正しく生きることと、自由に生きること、どちらに重きを置きますか】

「自由に生きることですね」

【第2問……】


そこから20問くらい性格診断?心理テスト?みたいな質問が続く。

中には【AOFの世界に何を求めますか】のような漠然としたものまで含まれていて、どんな判断がされたのかちょっと気になる。


【お疲れ様でした。以上で質問は終了です】

【この結果を元に、ステータス、職業、スキルの選定を行いました】

【選定結果については向こうに着いてからご確認下さい】

【それではいってらっしゃいませ】


その声と共に、再び僕の意識は薄れていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る