第26話

 あの後僕は、レヴァイルが与えられたという一室まで案内され、そこで夕飯を食べていた。

 ちなみにメニューはグランドトラウトのグリルとディアトゥリスのパイ。オークなんてなかった。

 ヴィヴィアお姉さん(この呼び方を強制された)が言うには、オーク肉なんで使っていたら他の貴族に笑いものにされかねない、との事だ。人間の風習などについては全くの無知である僕にはよくわからない。

 まあ、魚や果物なんかも好きな僕にとっては何の問題もない。ただ……


「……お肉……お肉が食べたい…………」

「……大丈夫だったら、今度家に来なよ」


 レヴァイルがうわごとのように呟いているのが、少し心配だ。が、食べ終えれば元に戻っていたので、余り深入りする必要もないだろう。

 食べ終わった後、僕達だけでアヴリル救出の計画を立てることにした。ここの家の人間の協力は仰がないのか、と聞いてみたら、レヴァイルがそれは疲れ切った表情で、


「多分話したら僕の契約者クローチが流石にかわいそうなことになりかねない」


 なんて言い出したので、断念した。……なんとなく、レヴァイルは大変そうだなあ、なんて他竜事ながら思った。ついでに、なんでお姉さんは未だクローチがいないことに違和感を抱いていないのだろう、と思った。

 閑話休題。

 お互いの情報をすり合わせていった結果、恐らくクローチは学校にいるであろう、という結論に至った。

 話によれば、彼はレヴァイルと契約する以前は母親が馬車で学校まで送り届け、帰りも同じようにそうしていたらしい。そして、契約後はずっとレヴァイルの背中に引っ付き、本にかじりついているのだとか。

 レヴァイルが見た限りでは馬車の中から外を見る事は叶わず、レヴァイルの背中に引っ付いている時は本ばかり見ていて周りは見ていない、らしい。

 まあ、要するにここから学校までの道のりが分からない可能性が極めて高い、という訳だ。道が分からなければ帰ってくることなどできない、と。

 それに、彼の両親はアヴリルに執着している事を知らないらしい。更に言えば、そういった不祥事に対してはかなり厳しい人達らしい。

 であれば必然、誘拐が発覚する可能性がある事は出来ない。つまり自宅に連れてくることはできない、という訳である。

 そしてとどめに、彼には仲の良い人間がいない、らしい。まあなんともみじめな話である。

 仲の良い者がいないという事はすなわち、頼る事の出来る相手がいないという事である。

 この三点から導き出される結論は、ずばり。


「……学校だろうね」

「だね」


 まあ、そういう事である。……こう考えると少し哀れな奴の様に思えてくるが、とはいえアヴリル誘拐の張本人だ。同情の余地はない。

 居場所の特定 (予想)が出来た所で、次はどう攻め込むかだ。と言っても、これに関しては深く悩む必要もない。


「まあ、実力行使でゴリ押せば……」

「それでいいか」


 どうせこうなるからだ。

 レヴァイルは、普段は大人しいのだが、偶に過激になる。その基準は知らないのだが……どうやら今回はその基準を達したらしい。あまりおどおどされるのも困りものだったので、これは在り難い。

 と、いう訳で。


「行こうか」

「うん」


 僕達は、頷きあって同時に部屋を出た。

 通路には誰もいない。レヴァイルが「あれ……? 使用人さん達はどこ行ったんだろ……?」なんて首をかしげているが、誰にも見られないに越したことはない。

 そのまま無人の通路を抜けて、広大な広間へ行き、扉をゆっくりと開いて外へ出る。

 もう日は沈み切っていて、空には無数の星が輝き、端がほんの少し欠けた月が一つ浮かんでいる。

 僕はそんな夜空の下、静まり返った街の中を、レヴァイルに先導されて駆けていく。

 十分ほどだろうか。僕達はようやく、学校の前までたどり着いていた。だが、既に学校は閉められており、とてもではないが人がいるようには思えなかった。

 さて、どう乗り切ろうか。学校内に侵入する方法を模索していると、ふと思いついたことがあった。

 アヴリルの家の裏手に残してある、ディアトゥリス。恐らく必要はないだろうが、持ってきて置いてもいいかもしれない。

 

「ねえ、レヴァイル」

「……うん? どうしたの?」

「ちょっと、ディアトゥリスの実を取ってきていいかな」

「ああ、大丈夫だよ。その間に考えておくから」


 レヴァイルに断りを入れて、アヴリルの家へ急ぐ。近年稀に見る超速移動で目的地へたどり着き、家の裏の庭に行ってディアトゥリスをまとめて抱える。そして、学校へ戻ろうと家の表に出た所で、


「ねえ、ヴァルケイン君。私も連れて行ってくれないかしら」


 唐突に後ろから声を掛けられた。

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