第23話
さらに次の日。
またクローチに襲撃された。
「でえぇい!」
僕がアヴリルに続いて教室から出た瞬間、頭上から降ってきたのだ。しかも、鉄パイプを持って。
「いったぁ!?」
「よし、うまくいった! おい貴様、アヴリルは俺がもらっていくからな! …………あれ、どこだ?」
「……僕の背中だよ」
……また自爆していたが。
本当に懲りない奴だ。少しは自制心というものを持った方がいいのではないだろうか、コイツは。
またも失敗したことに気が付き、クローチは顔を青くしながら赤くするという珍妙なことをしながら、僕に散々八つ当たりして走り去っていった。
「……うぇへへへ……ヴぁるきゅんのにおい……」
「…………」
そして、アヴリルは相変わらず平常運転である。怖い。
僕は、本日何回目かも分からないため息をついて、ゆっくりと歩き出した。
*
開けて翌日。
また来た。
「でりゃあぁっ!」
「…………」
……今度は投石か。僕には(というか、僕たちドラゴンは殆ど例外なくだが)鱗があるからダメージなどあるはずないのだが……分かっていないのだろうか?
「――ッ、な、なあっ、なんで痛がってないんだ! おかしいだろう!」
「……角が丸っこい石ころ程度で僕の鱗が割れると、本気で思ってたの?」
「……………………あ」
どうやら分かっていなかったらしい。つくづくどうしようもない奴だ。
……いや、
「……おい、何が可笑しい!」
「――ッ、と、ごめんごめん、ちょっとね」
いけない。口元がニヤニヤしていたか。……ドラゴンの表情は読めるのか、この雄。人間は僕たちの表情が読めないと聞いたことがあるのだが、よくわからない所で才能を出すな。
僕は顔を引き締めて(かなり強張っているのはご愛嬌だ)クローチの横を通り過ぎる。その間ずっとこちらを睨み付けてきたが、それ以上の事はしてこなかったので無視した。
「……はあ」
建物の外に出たところで、思わずため息をつく。先程のクローチの事もそうだが……何より、
「……すぅ……んっ、はぁ……はぁ……」
「……………………」
アヴリルがこの調子である。もうため息つくしかない。
「……ねえ、ちょっと」
「うー……なーにー?」
「…………僕の腕の中で発情されても困るんだけど」
「ヴァル君が悪いんだよ」
「なにをおっしゃるんです」
絶対に僕は悪くない。何もしてないんだから。
*
そんなこんなで、クローチの襲撃が日課になって早一か月。
月日が経つのは早いもので、ついこの間まで穏やかで心地よかったはずの陽光が、今では鱗にじりじりと照り付けてくる鬱陶しいものになってきた。
鱗が温まると隙間に熱がこもって居心地が悪いのだ。友達は割と平気な顔をしているのだが、僕はこれがかなり嫌いだった。
以前まで住んでいたレッドオーグ山の高原はまだよかった。熱いとはいっても生活に影響が出る様な強烈なものではなかったし、風も吹いていて熱がたまる一方という訳でもなかったから。
しかし今は違う。窮屈な閉鎖空間であるという事もあってか熱さはこれまでに経験してきたものを軽く凌駕しているし、心地よい風が吹く事もない。
僕にとっては余りにもつらい環境だった。
そんな事もあって、
「…………………………う………………」
「ヴァル君大丈夫? 調子悪そうだけど……はっ」
「………………?」
「……お、おっぱい……揉む……?」
「………………どうしてそうなるんだ」
この通り、我が儘が服を着て歩いているようなアヴリルにですら心配される始末だ。……隙あらば僕とまぐわおうとするところは相変わらずだが。
結局、僕はこの日学校が終わるまで、アヴリルの教室の後ろで全く動かずにいた。
……嗚呼、つらい。
*
その日の放課後。僕は何時もの様に襲撃に備えて、残り僅かな気力を振り絞り周囲を警戒していたのだが……。
「…………あれ……?」
「………………どうしたのヴァル君……? はっ、もしかして私の魅力に気付いちゃったとか?」
「……そんな訳あるかい。……あの人間の雄……なんて言ったっけか」
「クローチ?」
「そうそれ。今日はいないなあって思ってさ……」
そう、あの鬱陶しいクローチが、今日はいなかったのだ。これまで毎日欠かさず襲われてきていたので、なんとも奇妙な感覚である。
何か企んでいるのかもしれない、と少し不安ではあるが、襲われないに越したことはないので、そこで考えるのは止めてすぐに帰ることにした。
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