第11話
「実はさ……いつになるかは分からないんだけど、学校が終わった後にヴァルケインの契約者を攫おうって言い出したんだよ」
「……うわあ……」
まさかとは思ったが、やっぱり連れ去ろうと考えたみたいだ。あの雄のやることにはほとほと呆れてしまう。
だが、実際そんな事をするとなれば、僕としても見過ごせない。アヴリルはあれでも一応は僕の契約者だ。そんなアヴリルが攫われるというのは、契約を済ませた身として絶対に防がなければならないだろう。
「……本当は、ヴァルケインにも言うなって言われてたんだけど……」
レヴァイルは、一通り話した後苦しそうにそう呟いた。……わざわざ僕の為に、自身の契約者との約束を破ってくれたという事か。そう考えると、何だか少し嬉しく思える。
それにしても、クローチの言葉をそんなに真面目に受け止める辺り、やっぱりレヴァイルは優しい奴だ。
「そんなに思いつめなくてもいいだろ? そんな頭のおかしい奴の言葉なんて、深刻に受け止めるだけ無駄だよ」
「……ふふっ、ありがと、ヴァル君」
慰めの言葉をレヴァイルにかけると、少し気分が楽になったようで、ぎこちないながらも笑みを浮かべる。
そんな彼に僕も軽く微笑んで、話を続けた。レヴァイルの契約者、クローチの暴走を止める案を出すために。
*
議論はかなり盛り上がって――と言っても、ずっとひそひそ声ではあったが――ああでもないこうでもないと大量の案を出しては捨てていった結果、僕がアヴリルを護るのが一番手っ取り早いという結論になった。
まあ、レヴァイルはクローチに口出しするなと言われているし、実際それが妥当だという事は重々承知している。
……が、やはり怖いのは事後のアヴリルの反応だ。今の時点で僕に対する愛、と呼んでいいのかは分からないけど、とにかく僕に対する気持ちは既に限界突破してかなり危ない状況にある。そこでこんないかにもな事をすれば、確実にアヴリルは今以上に暴走しだすだろう。それこそズァイクとアレイを無理矢理引き込んで僕を抑えつけ、貞操を奪いに来る可能性すらある。
そんなのは御免だ。絶対に現実に起きてはならない未来だ。
だが僕のバッドエンド回避のために、アヴリルを見捨てることも出来ない。契約していなければまだ他人事で済ませられたが、生憎僕はアヴリルと契約を済ませている。そんなことはできない。
それに、親友のレヴァイルを悲しませるようなことはしたくない。
そんなわけで、僕がアヴリルを護るという事で話が付いたのだった。
話を終えて一息ついた辺りで、今日の昼食が運ばれてきた。……例によってオークの肉。僕たちの食事が全部オーク肉説は、少しずつ現実味を帯びて来た。嗚呼、木の実が食べたい。
ちなみにレヴァイルは、嬉々とした表情で肉にかぶりついていた。……普段は僕より雌々しいというのに、僕よりも喜んでいるレヴァイルを見るとちょっと可笑しかった。
*
その後アヴリルが帰る時間になるまで、僕はレヴァイルとのんびり寝転がっていた。今日は珍しく――まだ二日目で『珍しく』と言うのは変だが――限界を迎える事はなかったらしい。
僕は木造の建物を出て、学校の前に広がる平地の隅でアヴリルを待つ。五分ほどすると、恐ろしいほどの人間が一気に飛び出してきた。人間たちは自身が契約したドラゴンと合流し、次々とその場を去っていく。
暫く待っていると、やがて複数の人間に紛れてアヴリルが出て来た。出入り口から少し離れた所に立って周囲に視線を巡らせ、こちらを見ると笑顔で飛んできた。
「ヴァルくうううぅぅぅぅぅん!! 会いたかったよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「……あ、あはは……」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……ああぁぁぁヴァル君の匂い癒されるううぅぅぅ……やっぱりヴァル君は最高だよお……っ」
……公衆の面前で僕に恥をさらさせながら。しかも盛大に。
嗚呼、もうレッドオーグ山に帰りたい。
そんな僕の胸中の叫びなどアヴリルが知る由もなく――たとえ知ったとしてもやめてくれるとは到底思えないが――顔を僕のお腹にうずめて思い切り頬を擦り付けてくる。心なしか息が上がっているようで、生暖かい風が不規則にかかってくるのはあまり良い感覚ではなかった。
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