第25話 移動するには…?

「浮遊魔法はないなぁ…」

「俺も魔法は一切不可」

「私もだ。空を飛ぶ…すなわち逃げる卑怯な輩になりたくないから選んでいない」

「オレは持っている。家系の事情で幼いころから訓練されていたからさぁ」

「私は一応、持っていますが…魔力が足りないので……」


 ティノ、親友、シャル、ラルク、エルマの順で答えた。

 ラルクとエルマ以外は浮遊魔法は一切持たないときっぱり断る。ラルクは「俺一人なら十分だと」付け加え、「人数分なら運べます」とエルマが付け加えた。


「つまり…空を飛んでいくのか?」

「話し聞いていなかったのかよ…」

「うるせぇ! それどころじゃなかったんだよ!!」


 ラルクと親友はいつの間にか仲が良くなっていったみたいだ。


「ティノよ、それを見て仲好いと思うのは君の目を疑うよ」


 シャルがぼそりと暴言を吐いた。


「――とりあえず、事情は分かりました。いまから、私が指示することをきちんと行えますか?」

「!」

 指で床をなぞる。魔法で書かれた文字だ。伝えたい人にしか伝えることができない透明のペン。エルマが伝えたいことを気づき、一同は頷いた。


 ”空からではなく水辺から攻める”


 エルマはこう言いたかったのだ。


 一同はそろい、周囲を見渡す。

 残っているのは絶望している受験生となんとか空を飛ぶ手段を考えている受験生がちらほらと残されているだけだった。

 もう、あまり時間がないようだ。


「いつでもいいぜ」

「ああ…オレも」

「ぼくもOKだよ」

「私もだ。いつでも構わない」


 エルマは頷いた。


「では、問います。~~~~」


 エルマは詠唱を開始した。聞きなれない言葉が飛ぶ。ティノが知る言語ではない言葉だ。どこの言葉だろうか。


「シースタ語だ」


 シャルが声を出した。


「どこの言葉だ?」

「遥か東にある大陸の言葉だ。数少ない民族が使う言語で、その言葉を知るものは数えるほどいないという」

「まさか…!」

「そのまさかだよ。エルマはかの国の出身の可能性が高い。以前、話しを聞いたとき、ピーンと来ていた。エルマはある部族の末裔の可能性がある…と」


 シャルは今まで纏まりきらなかった疑問が解決へと導いた。その答えが、エルマの出身と奇病が唯一エルマだけ掛からなかった原因が、この言葉からして見つけたのだ。


「その話初めて聞いたぜ」

「私とエルマとの関係だ。だが、これ以上はエルマの許可がいる。彼女がほとぼり冷めたら話せるかどうか聞こう」


 シャルは唇を閉じた。

 エルマの出身…彼女の身に何が起きたのか、ティノは気になって仕方がなかった。


「~~~ 召喚!」


 エルマの詠唱が終わり、召喚と口に出した時、目の前に木船が現れた。ちょうど五人ぐらい乗れるほどのボートだった。


「フゥー」


 エルマは息を吐いた。

 魔力が底をついたのか、倒れそうになるところを親友がいち早く行動し、キャッチした。エルマは心身疲れ切り、ぐったりしていた。


「大丈夫かエルマ!」

「ええ……私は……平気…さぁ……いこう…」


 かすれる声に親友は心底心配していた。

 ティノだってシャルだってエルマのことが心配だ。でも、魔力を回復する術は持っていない。寝るか食べるか出ないと回復しない。


 エルマはこの試験の間は行動できない事だけは頭に入れなくてはならない。


「さて、オレの出番だね」


 ポケットに手を突っ込み余裕な顔をしてボートに近づく。


「船に何する気だ!?」


 親友がラルクに指を指して訴えるが、ラルクはシラケた顔をして「黙ってみていな」と手を振った。


 ボートの先端に触れると、まるで乗り物が生きているかのように動き出した。エンジンを搭載したかのような動きだった。


「オレができるのはこれくらいだな。これで、人数分は自由が利くな。オレは主に舵を取るから、後の戦闘は三人に任せるよ」


 そう言って、舵をとるため先頭に乗った。

 お互い顔を見合わせ、ボートに乗る。


 グググと音が鳴りボートが水辺へ移動する。水の上に着水すると、自動的に目的地に向かって進行する。


 エルマがルールの盲点を見抜いた。

 ルール上、”空だけ”とは言っていない。”水中でも水上でもルール上、問題”ないはずだと、エルマは解釈していた。その結果がこれだった

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ウィッチウィザード~魔法という名の犠牲~ にぃつな @Mdrac_Crou

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