第24話 第四部 第二次試験開始

「では、着いてきてくださいね」


 ヘノジは高く飛ぶ、足で空気を蹴っては宙へ飛ぶ。動作を繰り返すと空を飛んでいくのが分かる。


 ヘノジは空気を蹴ることで宙でも移動する方法を編み出した技を披露した。


「まさか…”空か”!?」


 受験生たちに緊張が走った。

 空からついてこいというヘノジからのメッセージだ。


「そらぁぁあああああ!!!」


 誰かが叫んだ。

 ”空”を飛んでついてこい。その言葉を理解した受験生たちは浮遊魔法を使う者や、箒で飛ぶ人、乗り物を召喚して飛ぶものと種類は豊富だが、そのうち経験がないものが取り残されていくのは目に見えて恐ろしいものでもあった。


「ふぅーようやく落ち着いたぜ」


 体内にあった汚物をすべて吐き出した親友はようやく正常を取り戻したという顔をしていたが、明らかに無理をしている。


「どこがだよ」


 ティノの前にラルクが立ち寄った。


「なに…」

「先ほどまで吐いていた人のセリフじゃないよね」

「なにがいいたい」

「俺としてはどうでもいいけど、さい―――」

「待ってくれ!!」


 ティノがラルクを追いかぶさるように抱き付いた。


「なにするんだよ! コイツに説教してやらねぇと!!」

「いいんだよ!! これはぼくと親友の問題なんだ。口出しはよしてくれ」

「…チィッ」


 舌打ちした。

 ラルクはそれ以上何も言わずに去っていった。


「ごめん、ラルクはなんだか腹が立っているみたいでね」


 手を差し出す。

 親友は「別にかまわない」とティノの手を払った。


「あいつが何を言いたいのか…俺にはさっぱりだが、ひとつだけ言えることがある。アイツは、俺たちのことを”好意”を抱いている」

「行為…? まさか、親友は――」

「だぁああーー!! その行為じゃなくて、好意だ! 相手に興味を抱くなど言意味で使う。親切心とかだ」


 親友はティノの異なる考え方を否定しつつ、ティノには直接言えないが、あいつは、親友たちを羨ましいと抱いている。親友にしかわからない。孤独だった奴がある日、友達ができたとき、複雑に絡む心理的なこと、環境、家族や一族の掟、そして友達に対する想いなどが自分の心を蝕む。


 毒の鋼を突きつけられた感じだ。思いという毒が鋼に沿って、心に突きつけられる。物理的な痛みではなく精神的な痛みが、相手に理解されないまま、苦しむ。


 ラルクと親友は似ている。生まれや環境は違えど、孤独だった時間から友達という一粒の光が触れたとき、その感情は別のものに引き合うことに――


「ジンさん、ボーとしていて、大丈夫でしょうか?」


 ハッと気が付くと目の前にオデコをくっつけようと近づくエルマの顔があった。

 慌てて後ずさり、エルマと距離をとる。


「平気だ! もう気持ち悪さも飛んだから大丈夫だ!」


 無理に元気だとアピールする。


「…もし、辛かったら言ってくださいね。私で良ければ力になりますから」


 エルマはそういうと礼をし、シャルの下へ駆けて行った。

 親友は立ち上がり、ティノの後を追う。

 複雑な思いを抱きながら、どうしたらいいのかと心の中が揺れている。

 親友の頬が紅潮しているのをシャルは見逃さなかった。


「…時にジン」

「なんだよ」

「言葉でなくとも言動や表情で現れる時がある。君はまず顔に出ないことから注意するべきだ」


 ハッと親友はリュックから手拭いを取り、顔を拭いた。

 感情が顔に出ていると自覚しているからの行為だった。


「それよりも皆さんは浮遊魔法は持っているのですか?」


 ひょんなタイミングでエルマが仲間に尋ねた。

 この先は、魔法が重視される。

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