第23話 クリア前に…

 中間地点までようやく到着したとき、ティノとラルクは先頭まで追い越していた。

 目の前には試験官(ヘノジ)が駆け上っている。三段飛ばしではなく五段飛ばしのスピードで巡るしい速さで進んでいた。


「およそ、45名が脱落者…」


 駆け上りながらも懐中時計で時間を見つめ、探索魔法で脱落者たちの人数を数えながらヘノジは考えていた。


(今年の受験生は優秀ばかりですね。微笑ましい限りです。しかも、後ろ走っている子供たちは新人(ルーキー)…経験者を出し抜くほどその実力は評価に値しますね)


「いつの間にか一番前に来ちゃったね」

「うん。ペースが遅くて欠伸が出るぐらいだからね」


 呑気にラルクは欠伸をしていた。

 ティノは汗だくになりながらも走っているのに、まるでウサギと亀のように感じられる。


「結構、試験(テスト)も楽勝かもな。つまんないなー」


 皮肉っぽく聞こえる。

 背後で少年(ラルク)からの言葉は皮肉ってはいるものの優等生のような気丈さもあるように感じられる。


「ラルクはなんでウィッチハンターになりたいの?」

「オレ? 別に超難関だって言われているから興味本位に受けてみたっていう単純な話さ。でも拍子抜けだね」


 余裕な顔を見せつける。


「ティノは?」

「ぼくは超有名な先生から”ウィッチウィザードの試験を受けてみろ”って挑戦状をたたきつけられたからかな」

「なんだーそのやって感は」

「ぼくはぼくの目標を決めるために”ウィッチウィザード”を目指している。そうすれば、先生がもう一度会ってくれるような気がするんだ」

「…先生ねぇ」


 腕を組み後頭部に回す。


「お前の先生って、超有名って言ってたけどさぁ、どんな人なの?」

「教えない」

「名前だけでもいいからさぁ」

「親友との約束なんだ。だから、教えられない」

「……わかったよ。ちぇっ、親友には教えてオレには教えないとかー」


 ラルクには悪いけど、こればかりは親友との約束だ。他の誰ともいえない秘密の秘密の約束なんだ。


 ドドドと駆けあがる足跡が段々と後ろから寄り添ってくる。

 誰かがこう叫んだ。


「光だ! 見ろ出口だ!!」


 光がぐっと近づいてくる。四角形の出口から光が差し込む。


「ようやく暗闇とはオサバラだ」


 脱落者は51名となった。

 以外にも今年の受験生は優秀ばかり。ヘノジは受験生の顔面を見渡し、彼ら一人一人を点数を填めていく。


 ”点数評価”。受験生にえこひいきなく点数着けを行う行為。受験生にはその行為が行われていることを知らないうえ、気づかない。

 試験に対して卑怯なこと、許されていない殺人行為などを踏まえてはマイナスを与え、最終試験に残ってもマイナスがある受験生は不合格とみなされる。


 ”ウィッチウィザード”は犯罪者の集まり。そう思われたくないせめての仮称評価である。


 出口の外は意外な光景が広がっていた。


「!?」


 汗だくと息が荒くクタクタな受験生とともにティノたちは周囲の圧巻に驚愕していた。

 見渡す限り水辺。

 今昇っていた階段のところだけ陸地でそれ以外は水ばかり。孤島の上。受験生たちはいま、孤島に取り残されたような感じだった。


「な…」

「…ここは」


 受験生たちは絶句していた。

 水辺から夥しい悪意のオーラが煮えぎっている。水の底にはいったいどんな怪物が待ち受けているのか考えたくもないほど悪寒と恐怖に絡まれていた。


「うぐっぅ…!?」


 親友が口を押さえつけ、水辺に向かって嘔吐した。

 水辺から漂う蒸気を吸ったからだ。水辺からボコボコと泡立つ。その泡からは硫黄のような臭いが鼻を刺激する。


 疲れ切っている親友を含めた数十名の受験生たちは目がくらみ、水辺へ走っていった。皆、口の中のものを吐き出すかのように「おええぇぇええ」と聞くに堪えない声が響いてきていた。


「汚ねえーな」


 ラルクは耳を押さえながらそっぽを向いた。

 ティノは親友のことが心配で動揺していた。


「ヌメーレ湖。通称”帰らぬ毒壺”。二次試験会場へはここを通らなくてはなりません」


 ヘノジは淡々と解説した。


「この湖では常に毒の瘴気が渦巻いています。酸素は十分に注意してください。下手をすると死にますよ」


 人差し指をたてて注意深く促した。

 この湖は見た目以上に危険なものであるとティノは固唾をのみ込んだ。

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