第22話 エルマの過去

 檻から救いだしてくれた彼女の名前はエルマ・ハーリン。クリーム色の髪に腰まで長い髪、髪を結ぶエメラルド色のリボンが特徴だった。


「もう大丈夫よ」


 その手は暖かった。エルマに連れられ、ある場所へ向かった。そこは、教会だった。大きな扉を開けると大勢の子供たちが『ハッピーニューワルド』と文字が書かれた紙を広げて、大歓迎してくれた。


「新しい子よ、みんな、仲よくね」

「はーい」

「紹介させてよ!」


 みんなを差し置いて前に出て来た。青色の髪をした女の子だった。


「同じルームメイトのルゥよ! 君は何て言うの?」

「わ…わたしは…エミー」

「エミーちゃんね、よろしく。私はルゥと呼んでね」


 ガッチリと手を掴みぶんぶんと振った。

 ルゥの手もまた暖かった。


 破れかかった服、ギトギトの髪、煤で汚れた肌、赤切れた爪、魚のような死んだ目たちをオサバラし、新しい衣服、新しい部屋、元の綺麗な髪、美しい肌、透き通るかのような目。ここには、すべて希望が詰まっていた。夢もまた、小さな光となって手のひらの中に輝いていた。


 教会の横に建てられた二階建ての木造築は子供たちの部屋。二人一組の部屋で、それは決して広くはないが、狭くて汚かった前の孤児院と比べれば平気だった。


「ここが私とエミーの部屋よ。狭いけど、仲よくね」

「もちろん」


 4年後――


 子供たちはすくすくと育ち、魔法の術をエルマ先生から教えられていた。


「エルマ先生! エミーの魔法が…」


 エルマ先生も驚愕するほどエミーの魔法は誰よりも優れていた。それどころか、まだ教えたばかりの魔法をすぐやって遂げていた。これは、将来魔法使いの夢も待ち遠しほどだ。


「エミーすごいよ!」

「で、でも私…」

「みんなも褒めていたよ。こんなすごい人とルームメイトなんて、私尊敬しちゃうな。ねぇ、私にも教えてよ。みんなに見せてやろうよ! みんなの驚く顔を見てみたいなぁ」

「え、ええ。わかった。一緒に頑張ろう!」


 ルゥとの関係もすくすく育み、いつか二人はこの町で有名な魔法使いとして名前があげられるほど有名人になりつつあった。


 そんなある日、町の中で奇病が流行りだしていた。

 咳をはじめ、徐々に顔が紙のように破れていく。皮膚が紙のようにカサカサになっていき、最後は紙のようなペラペラの状態で死ぬという病だった。


「先生…これって」

「エミー、ルゥ、手伝って」

「「はい、先生」」


 エルマ先生はこの奇病を治そうと奮闘していた。この奇病は感染源が分からなく、男女・若老関係なく掛かる。それどころか、町だけでなく教会に預かっていた子供たちも奇病の感染が始まりつつあった。


「ルゥ…ゴホッゴホッ」

「ナイス!」


 ルゥの好きな少年のナイスだ。スポーツマンの彼はルゥを初めて口説き、恋人となった人だった。そんなナイスが倒れ、奇病の傾向がみられたいま、ルゥの心情はエルマと同様一刻も争うほどになっていった。


 日に日に、感染者は増え、圧倒間に町と教会の子供たちを埋め尽くした。ルゥも必死で治す方法とナイスの看病をしていたが、病気にかかってしまう。


「ルゥ!!」

「エミー……私は、へいき……よ」


 呼吸が荒い、感染して一週間になる。

 手は動かせなくなるほどノートのようにペラペラになっていた。足も同様だ。唯一腰から上だけが無事だったが、いずれペラペラになるのは時間の問題だった。


「ナイス……は?」

「……」


 答えられなかった。

 ルゥが倒れて二日後、ナイスは死んだ。紙のようにペラペラになって死んでいたのだ。


「そう……か」


 ルゥは察したかのように大人しくなった。

 目を瞑り、穏やかな表情になる。


「ねぇ、エミー…覚えている? わたし……と…約束……こと」


 エミーは泣き顔で頷いた。


「わす……れ…い」

「―――!!」


 パキパキと紙に変わっていき、言葉を最後に完全に紙へと変わってしまった。さすろうにもペラペラになった彼女は、印刷した写真のようでペラペラだった。柔らかい感触なくただ、一枚の紙だけ。


「ルゥ!! ルゥ!! ルゥウウウウーーー!!! 嘘よ! 嘘よ!! 目を開けてお願いよルゥ! 私を一人にしないで、もう先生と私とあなただけしかいないの!! だから、眼を開けてルゥ!!」


 エミーは泣き、泣き、声が枯れれるまで泣き続けた。

 親友にして大事な友達が立った今、ペラペラの紙となってしまったのだ。


 騒ぎを聞きつけてエルマ先生が部屋に入ったものの、もう状況的に遅いことが分かり、落胆した。


 町は一か月で死に絶えた。

 謎の奇病の原因は結局不明のまま、エミーを残してみんな、いなくなってしまった。


「みんな……さよなら」


 エミーは教会に火を放った。みんなの思い出、大切な記憶たちを消すかのように燃やしたのだった。


「いくの?」

「はい」

「寂しくなるわね」

「私は決めたの。先生が成し遂げられなかったこの奇病を治す方法を外で探してくる。そして、先生のように私は医者になるの。そう決心した」

「エミー…」

「先生?」

「エミー、あなたはこれからエルマと名乗りなさい。私と同じ体系そっくりになってきた。髪色も染めれば瓜二つ。エルマは海外でも有名のはず。きっと手を貸してくれる人がいるはず。だから」

「先生、わかりました。私は改めてエルマと名乗ります。そして、先生お元気で。この魔法も時期に消えてしまいますので」

「引き留めてしまってごめんね。風邪ひかないようにね」


 バイバイと手を振る先生にエミーは涙をこらえて町を出ていく。

 燃えた教会のそばで二束の花が置かれていた。


 ルゥとエルマ先生宛と。


――現在


「私は、最後まで完治できる薬を見つけられなかった。私は決心したんです。外の世界に出て、ウィッチウィザードの資格を手に入れ、もう一度あの奇病を治す方法を探すと」


 そんな壮大な理由があったとは知らなかった。

 エルマは、助けてくれた恩人たちを忘れないためにもウィッチウィザードになって治す方法を探すべために旅立った。


「シャルさん。あなたが復讐の道を行くのであれば、私は救出の道を歩みます。お互い、正反対になりますが、私はあなたを信じています。だから、傷ついても私が回復してあげます。親友ルゥに誓って」


 ”覚えているエミー? 私と勝負よ! どっちが多く人々を助けられるか!” って、約束してしまったのでね。

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