第19話 厄介な連中(トリオ)

 小太りの体系でノートパソコンを携帯していた男性だ。今年初めて受験する予定で、遠い都会の国から出て来た人物だが、頭がキレる割に、体力は低く、周りからバカにされていた。


 学生時代、頭の良さを鼻で笑い、相手を見下していたが、体力は見下せないほど低く、数キロ走っただけでヘタレてしまうほど自身の体力のなさにコンプレックスを抱いていた。


 社会人になっても自分の頭を求められる。そんな夢を抱いて、都会に出て勝ち組の人生を手に入れた。

 だが、そんな勝ち組の人生も一年で終わってしまう。


 今まで馬鹿にしてきた奴らがウィッチウィザードの資格を手に入れていた。彼らはまるで手のひらを反すかのように見下してきた。

 それは耐えがたいもので、積み上げていた自信もあっけなく砕けてしまった。


(ボクは、あいつらを――)


 人生初めてウィッチウィザードを受けた。試験会場までの段階はとても簡単だった。頭を使えば楽勝。テストも楽勝だろうと軽く判断していた。


 だが、体力勝負と聞いて、一気に顔を蒼ざめた。


(体力勝負!? 馬鹿な!! 聞いていないぞ! そんなの…嘘だよな…!!)


 試験が始まり、みんなが走り出した。

 つられるように走ったのはいいが、自分の体力の無さは一層、彼の心を揺るがせた。


 トンネルを進んで何時間か経過していた。一向に出口が見えない。そんな中、脱落者一人がようやく現れだしていた。


(バカな!! バカな…!! バカな…!! バカな…!! ボクが脱落……!? そんなバカな!!)


 ヒューヒューと息をするだけでも限界。足が前へ動くのを拒む。つかむ手が痺れ震える。目がかすんでくる。心臓が口から飛び出そうだ。

 彼の足が引きずり始めた。もう…限界だ。


「やだ……したく……ない」


 男性の足がゆっくりと歩くようになり、持っていたノートパソコンが指から滑り落ち、地面へ落下。壊れてしまう。


 そこへ、さらに追い打ちをかけるかのように他の受験生がやってきた。


「もう諦めるの坊や。走ってまだ5時間程度よ」

「こんなトコでへばる奴、初めて見たぜ。恥ずかしいヤローだ」

「才能ねぇーんだよ、二度とくるなクズ野郎」


 そいつら全員がバカにしてきたはずの連中の顔と重なり見えていた。耐えてきたはずの心が折れてしまった。


 男性はその場に崩れ落ちた。


 あざ笑うかのように受験生たちは走り去っていった。

 彼はもう、走ることはできないと確信して。


「トビ、トンパ、リリー。お前ら相変わらずシャレにならんことをするよな」


 バカにしてきた三人を呆れながら一人の女性が指摘をした。


「新人をつぶす。それがお前なりの趣味だからなトビ」

「ふんっ。トンパに言われたくないね。相手の弱点を突く。会ってからすでに見抜いていたじゃないかクズ野郎め」

「まあまあ、喧嘩しないの。私が力を奪ってなかったら、今頃二人ともやられていたわよ。私に感謝しなさいよ。ああ見えて、そこそこ戦える奴だったからね…」


 女性はフゥと息を吐き、三人から離れるかのように先陣切って走っていった。

 相変わらずあの三人(トリオ)は無敵の布陣だ。


 ”新人つぶしのトビ”、”弱点情報のトンパ”、”魔皇女リリー”。互いの弱点を克服した布陣だ。彼らを真っ正面から対抗するとこちらがやられてしまいそうになるほど厄介な連中(トリマキ)だ。


 早々、距離を取り、標的(ターゲット)されないようにするしかない。誰かが倒すまでは。

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