第15話 第三章 会場まで案内しましょう
市街地から離れ、古びた建物の前に到着した。
木造築で窓ガラスはヒビが入っている。扉や小さな隙間には蜘蛛の巣が張るなどひどい有様だった。
「これが…会場…なのか?」
「会場だよ。見た目通り、ここが会場なんて誰も思わないだろ」
「たしかに」
明らかに廃墟だ。こんな秘境ともいえる場所に位置する建物を会場にしようと考える試験官はきっと隠し上手なんだろうか。
中に入ると埃臭い。
もう十何年も使っていなかったようだ。埃塗れで足がつくたびに胞子と一緒に埃が飛びまわる。
「うげっ汚い!」
「吸うな。喉がやられるぞ」
シャルに注意されながらも、奥へと歩いていく。
すると、小さな温泉が現れた。
「ここだ、温泉に入りながら待つと言い」
「ん…ちょっと待ってくれ、今、何といった?」
温泉に入りながら待てと言っていた。
親友が納得いく理由がほしいとナビゲーターに頼んでいた。
「温泉に入りながら待機だ。会場は、ここからしか入れない」
「だけどよ…混浴だろ? ここ」
ピッと枯れた露天風呂に差した。男女を隔てる壁はなかった。つまり、男女共有・混浴ということになる。
つまりそれって…。
「入ればわかる。お湯を張って、水着を着る。それなら互いに文句はないだろ。あと、タオルの使用はオッケーだ。この露天風呂の温泉に浸かるのが条件だ。他の受験生は当分来ない。なにせ、ここは一戸だけじゃないからな」
意味深なことを言って出ていった。
ナビゲーターはこれ以上語ることもなく、ティノたちを置いて、空高くへと飛んで行ってしまった。
「よ、よし入るぞ!」
親友が息をのんだ。
「まずは、掃除と手入れ、お湯を張る、ボイラーの様子だな」
手分けして、それぞれ準備に取り掛かった。
エルマはお湯を張る。アカを落とし、お湯が流れるようにする。
ティノは埃や蜘蛛の巣を撤去するため転移術で次から次へと綺麗にしていく。
手入れはシャルの役割だった。露天風呂の屋根は風で飛ばされてしまっていたのかぽっかりと穴が開いてしまっていた。
それを直すためとそれ以外の壊れた個所を順に検討して直していく。
最後にボイラーは親友が見ていた。
「なんで俺が」
ブツブツと不満を呟いていたが、もくもくと作業を終え、お湯を流せるようになったのは2時間後のことだった。
この建物内に初めから置かれていたかのように水着が置かれていた。それをみんなで着るのかと親友はドキワクだったようだが、シャルとエルマはドン引きしていたのを気にしていないほど心は広い様子だ。
いざ、風呂に入ろうとしたとき、水着を着ていたのは親友ただひとりだった。
「あれ? みんなは入らないの」
ティノ含めた三人は私服のまま待機していた。
「ちょっと水着でも混浴は嫌だな。だって、男の人に裸を見られる様なものよね…体のラインも丸見えだし…」
嫌そうにエルマはチラチラと親友を見ながら困惑していた。
「右に同意。”ナビゲーターは温泉に入れ”としか言っていない」
「だから、入ろうぜ! せっかく気持ちいのに…ああ、ごくらくごくらく」
「おそらく時間経過の待ちだ。一人だけでも入っていれば気づかれるだろうし、何よりもどうなるのかが検討できる」
「つまり、俺は実験体ということか…!?」
「左様。君も頭の回転が速くなったようだね。温泉の効力のおかげかな」
「そこまではないと思うぞ…」
ティノはぼそりと呟く。エルマも頷いていた。
ゴゴゴ…と地響きする。温泉の真ん中からゴボゴボと泡立つ。数秒もしないうちに泡の数は増え、間欠泉のような水柱が立った。
「なっなんだ!?」
慌てて親友が温泉から出た。
服を持って慌ててタオルで体から水気をふき取り、服を着る。
その間、間欠泉は次第に威力を衰え、一つの扉となって現れた。
「どうやらシャルの推理通りだったな」
周りは大理石で扉は木製でできていた。しかも、ただの木製じゃない。
「これは木ではない。おそらく魔法で作られたものだ」
シャルが扉に触れながら魔力を感知する。
「魔法はなんでもアリなんだな…本当に驚くばかりだよ。魔法を俺も早く覚えたいねぇ」
と羨ましい一言を放った。
「私が教えましょうか。簡単な基礎程度なら私でも教えられます」
エルマが立候補した。
「なら、ありがたくおしえ――」
「入るぞ。気を抜くなよ。この先は猛者の巣窟だ」
扉に手をかけ、入るとそこは暗く閉ざされたトンネル様な空間だった。
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