第14話 みなさん合格です
大きな原っぱに着いた。転移術での鬼ごっこに飽きたようで魔獣は変装せず真の姿で対面してくれていた。
「ガキの割には素早い。俺の足を追い越すとは大した奴だ」
手を上げる。メキメキとトナカイの角のように鋭く頑丈に伸びる。大きな爪だ。あれで貫かれたらひとたまりもないだろう。
「俺にもプライドがあるんでね。代償は高くつくぜ!!」
勢いよく飛びかかった。
ティノは爪が刺す瞬間に魔獣と位置を入れ替えた。
フゥと姿が消え、同時に背後に現れる。
「な…!?」
大きな岩を両手に抱え待ち構えていた。勢いが行き過ぎて、回避ができない。尻目でティノの姿を見ることしかできなかった。
「ちょ…ちょっとタンマ!!」
ガンと脳震とうを起こした。魔獣はその場に倒れた。
大きな岩も転移術で持ってきた。あらかじめ、目的地に着く前に手ごろな石を目につけていたおかげでもあった。
魔獣が振り返る前に大岩を魔獣のすぐ間近の頭部に出現させ、落下させたのだ。大きな岩が消えたとき、魔獣は死期を悟るかのようにタイムと言って止めたが、聞き入れてもらえなかったようだ。
「……」
魔獣を建物へ瞬間移動させたのち、シャルと親友とも遭遇し、家まで瞬間移動させた。シャルは驚く素振りを見せなかったが、親友は「それ陸酔いするから嫌なんだよ…」と愚痴を言っていたがお構いなく飛ばしてやったら、案の定吐いていた。
建物の前に一家勢ぞろいするかのように男女、魔獣二体がそろって待機していた。
「ふーむ。私のスピードに追い付くなんて大した奴だ」
「俺なんて、二度も殴られたんだぜ。挙句に爆発された。まあ、大した怪我じゃないがな…」
先ほどとは一転していた。
恐ろし気な化け物の姿はどこにもなく家族ぐるみのような関係でなんだかほほえましい雰囲気が漂っていた。
「察しのとおり」
「私たちはナビゲーターだ」
魔獣は真の姿のまま自分らをナビゲーターだと明かした。
ナビゲーターとはウィッチウィザードの試験会場が毎年場所が変わる。その正確な位置を把握し有望な受験者を案内する。
彼らの案内なしで会場にたどり着くのは至難の業だと言われている。ちなみに、ナビゲーターは全国で数百人といるが、彼らのように魔獣だったり放浪者だったりと様々で家族ぐるみでやっている団体は数少ない。
「息子です」
「娘です」
怪我を負っていた男性はどうやら魔獣の息子のようだ。姿は人間そのものだが、これは仮の姿と言うあたり、真の姿は魔獣と同じなのだろう。
連れ去られた女性は娘。自ら腕のイレズミを見せながら説明し、
「このイレズミは古代語で書かれているんだけども…古代語を判読し、私たちが夫婦でないことを見破った。シャル殿お見事です」
シャルは照れることもなく平常通りだった。
「妻の実を案じて演技(フリ)をしていたのですが、すぐに見破られていました。けど、あえて知りながらも最後まで治療が施すまでは黙っていたエルマ殿の優しさは私の心もなにか癒された感じです」
「傷ついた人を見ていたら、そんな気にならなくて…エヘヘ」
エルマは舌を出しながら照れくさそうに笑っていた。内心、いつ襲われるのかドキドキだったと後でこっそりと教えてくれた。
「ジン殿は、他の皆さんと違い魔力を感じませんでした。つい、安易に騙されると思いましたが、すぐに見破ったところ洞察力は鋭いうえ、その辺の薬草を調合するなど器用さ、観察力もすごいものでした」
「よせよ、照れる」
心友は嬉しそうだ。
「ただ、本当に死ぬかと覚悟しましたよ。シャル殿が来てくれなかったら…今頃は」
「あははは…すみません」
「最後にティノ殿。私の足はこの山で自身があったのですがいとも簡単に追うほど運動能力とその転移術、機動力、行動力は他の誰にも勝らない強いものを感じました。お見事です。全員合格です」
仲間同士で拳同士をぶつけあい、やったなと意気投合した。
「会場まで案内しよう」
魔獣は大きな羽を生やした。コウモリのような羽だ。腕から羽が伸び、それを羽ばたいてみせる。足を掴むよう言われ、足を掴むなり、空へと羽ばたいた。
一同は、会場先まで世通しになるとは思いもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます