第13話 シャルの過去と力の秘密

 シャルが森へと入っていく。他のみんながいなくなったのを見計らい、コンタクトレンズを外した。


 瞳が赤く染まる。紺色の魔法陣が瞳に写した。

 ”魔眼”と世間で言われている秘法級のひとつ。


 かの虐脱グループ”義眼”。彼らがなぜシャルの故郷のみんなを殺したのかは、この瞳が原因だった。シャルの村は渓谷の地の底の底にある小さな村の出身だった。


 その村で生まれた人は皆、魔眼を持っていた。魔眼は大いなる力が宿る。その力は天候を操り、大地を切り裂き、空を二つに分けるほど凄まじいほどの力があった。


 ”義眼”と戦いになったとき、シャルは生き別れの妹とともに船で遥か上空へと逃がされた。村が渓によって挟まれ消滅するのを最後に、故郷を失った。


 シャルは妹共に外へ逃げたものの、妹もまた別の組織によって連れ去られ、行方を完全に断ち切られてしまった。

 運よく町で拾われ、師匠という無精ひげのおかげで、生き延びてきた。


 だが、運よく生きられただけでなくさらなる悲しみがシャルの性格を強制的に変えられた。


「妹が死んだ」


 今朝、ニュースで知った。新聞に大きく記載されていた。道端でズタズタに切り裂かれた死体が発見された。目玉がくりぬかれ、悔しそうに悲しそうにして倒れていたと。


 その姿が妹そっくりだった。いや、見間違うはずなかった。

 妹のそばに”義眼”と書かれた名刺が落ちていたことから、”義眼”が虐脱したのだと世間を思わせたが、シャルだけは知っていた。


 ”義眼”がわざわざ自分たちが行ったと証拠を残すクズ野郎じゃないことを。そして、妹を拉致し、殺した犯人は別にいると。

 シャルは師匠に訴えた。


「私に力をくれ。この瞳にかけて復讐する力を―――」


 シャルがウィッチウィザードを目指すのは”義眼”を討伐するのではない、捕まえるためじゃない、妹の仇をとるためじゃない。奪われた瞳をすべて取り戻す。そして、失った村を復興させ、二度と”魔眼”を奪われないために、世界に存在する”魔眼”を抹消するためシャルはウィッチウィザードになることを目指した。


 最後まで、師匠は復讐することに反対だった。だが、魔法を会得した。それも戦うためと守るための力を。


 時間は現在に戻る。

 シャルは魔眼の力で魔獣の追跡を追った。


 奴は木の枝を巧みに利用し、痕跡を残さないようにしていた。だが、魔眼の前では砂漠の中に埋もれた米粒を探すよりも簡単だった。


 魔眼に写る者は真なるもの。その姿を偽ろうとも暴くことができる。それゆえ、弱点もある。長く魔眼を発動していると、神経と血管が壊れ、流血する。痛みは頭部に訴え、気を失うまで痛みを訴える。


 およそ発動できるのは日に1分程度が限界だった。


「そこにいるのはわかっている。出てくると言い」


 大きな樹を前に魔獣は姿を現した。


「なぜわかった…」

「私の瞳の前では欺けない。大人しくその人を放せ」


 人質の女性を抱えた魔獣はあっさりと手放した。


「魔眼使いか。分が悪い。退散としよう」


 魔獣はさっさと逃げて行ってしまった。あの速さに追いつけるのは到底無理だ。そこまで脚力に自身はない。


「大丈夫か」


 女性はかすり傷程度だが、動かすにはまだ時間がかかるほど疲れ切っていた。おそらく、魔獣の影響がこの女性に与えたようだ。

 魔獣は人語を理解し、個々の能力を秘めているうえ、厄介な敵。魔獣は負のオーラを纏っているせいか、魔力が薄い一般人はなおさら影響を受けやすい。


 傷の回復速度が遅いとか、三日酔い、全身筋肉痛など症状は様々だ。


「夫は…?」


 かすれた声で女性は家に残してきた男性のことを心配していた。


「私の仲間が看ているから心配はない」

「お願い…夫のところへ私を…連れて行って」


 魔眼が反応した。この女性、微かに魔獣が放つ負のオーラを感づいた。

 腕を伸ばす女性の袖がずれ、肌白い肌が見えた。


(このイレズミは…)


 細かく描かれている模様が肘から先がびっしりと書かれている。見れば見るほど女性の全身に描かれているようだ。魔眼は対象の服の下まで見えてしまうのが欠点でもある。


 確信したわけじゃないが、気になって仕方がない。思い切って聞いてみた。


「君は…」


 声を挟むかのように茂みからエルマが現れた。疲れた様子もなく、心配した顔でやってきていた。


「シャルさん無事ですか!?」

「! ああ…魔獣は逃げられたが彼女とともに私は無事だ」

「男の容態はどうだ?」

「心配ありません。見た目ほどキズは浅い。私の回復で十分癒せました。いまは、家でぐっすり眠っていますから心配ありません」

「……そうか」


 シャルは魔法刀の鞘を抜かないまま、エルマの顔面に向かって叩きつけた。顔面がへこみ、後方へ吹き飛ぶほどの威力だ。


「なぜ偽物とわかった?」

「…エルマは優しいからな。けが人を置いてのこのこやってくるタマじゃないのはこの目で見ていた」

「それも魔眼が見せた結果か」

「そうだ。それに、エルマは「けが人は私が看ます」と言っていた。つまり、けが人を置いてくるほどアホな奴じゃない。そんなアホがやってきた。私はそれに腹が立っただけのことだ」


 本物だったらためらず殴っていたのかもしれないということか…? 仲間でも厳しい人だ。もし、他の誰かに化けていたとしてもコイツの前ではまやかしや変装は無意味のようだと顔面に証明していた。


 魔獣はそのまま姿を消した。


「……」


 女性に顔を合わせる前にコンタクトレンズで魔眼を覆い、彼女に迫った。


「ひとつ聞かせてくれ。お前は一体何者だ?」


 彼女は唇を大きく裂け、不気味に笑った。

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