第11話 魔獣注意

 山に入って数時間は経った。すでに日が暮れ太陽と交代して月が空に昇っていた。


「すっかり暗くなったな」

「かれこれ数時間は経っているからね」

「それにしても…」


 道なり道に進むたびに”魔獣注意”と書かれた立て札が目にする。魔獣がこの山に出没するというサインなのかもしれない。

 要注意に周りをよく見て、足元を注意して進んではいるが、魔獣というか獣すらいまだに発見してもいない。


「また”魔獣注意”の看板だぜ。こんな調子で本当に俺達は辿り着けるのかなァ」


 先が見えない不安が一層増す。


「休憩しようよー。トイレ行きたいよー」

「親友、置いていくよ」


 後ろで文句を言う親友に半分呆れる様子でティノが叫んだ。十数メートルで休憩を挟む友人にエルマが起こしに行くのは何とも情けなく見える。


「さぁ、時間がないですし急ぎましょうよ」

「うぅ…わかったよー」


 女の子にせかされ、親友は困れ気味に立ち上がった。


(お前らはいいよなー…魔法があって。俺も魔法があったらコイツらみたいに戦ったり楽したりできるんだろうなー…)


「! 見えたぞ」


 先頭切っていたシャルの先に大きな二階建てのロングハウスとその隣に大きな杉の木が立っていた。


「ようやく休憩かー」

「しィっ」


 口元に指をあて注意を促す。


 月が昇っている深夜時刻。それなのに建物には灯りがともっていない。船員の話によれば、人は住んでいると。けど、息を整え、耳を澄ますが、音が聞こえてこない。まるでもぬけの殻のようだ。


「どういうことだ…まさか!」


 親友の不安が恐怖へと変わる。

 ここまで来る間”魔獣注意”という看板を目にしてきた。おそらくここの家主は餌食になった可能性もあると踏んだのだ。


 ダッと親友が走った。


「おいっ! 一人でいくな」


 シャルが親友の肩を掴んだ。親友は振り返り「お前は皆殺しにするのか?」とシャルは「なに?」と返した。「お前は他人に興味がない顔をしているのは知っている。だがな、今まさに人が助けを呼んでいる。俺にはわかる。だから、ゆく」と、シャルの手を放し、窓ガラスを割って、中へ飛び込んだ。


「う!!?」


 親友の辛そうな表情が目に浮かぶような声が出た。痛ましく悲しくそして辛い光景が広がっているのだと。一同は親友のそばに移動すると、親友が見ている光景がティノたちにも目に見えた。


 建物の内部は家具などが破壊され瓦礫化していた。唯一原型を保っている物もあるが大半はゴミだ。

 その中に傷ついた男性が必死に手を伸ばし、窓のそばで女性が宙に浮いているのが目についた。


 雲に隠れていた月が顔を覗き込む。月明かりが窓に立つ化け物にスポットライトを当てると、真の姿を現した。


 三メートル以上もある背丈とトナカイほど長くウサギのような大きな耳。全身黄色い毛皮で覆われ、耳の先っぽだけは黒く染まっている。

 目は狐のように横に長く。笑うと不気味さを伺える。

 肥大した大きな手と足はカンガルーのように機敏。大きな手は人の頭を軽々と潰すほどの力がありそうだった。


「魔獣!!!」


 親友を除いた全員が武器を抜いた。

 武器なしでは敵わない相手だと分かったからだ。


 魔獣は嘲笑うかのごとくティノたちに突進し、隙間が空いたのを見計らい外へ逃走した。

 この暗闇の中、得意げに逃げ惑う姿はこの山を牛耳っている。もしくは自分の庭のように道を知っている感じだった。


「助けなくちゃ」

「エルマ! けが人を頼む」

「わかったわ。気を付けて三人とも」


 一同は森の中へ入った。

 三手に分かれ、各自で対象を捕まえるべく山へ入り込む。それぞれ他人に自分の魔法・能力をバレないためでもあった。

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