第10話 目的地は自分で探せ

 ドルイ港。海側はホテルが立ち並ぶほど観光客向けの物件がそろっている。船も他方から来るほど船着き場は広い。また、人種も多様でいろんな人たちが集まるため、静かなところを恋する人は疎遠する。


「すげェ人だな」

「お祭りみたいだな」

「そうだな」

「呑気に観光気分じゃねーぞ」


 人口数が少ない離れ島出身のティノにとっては初めての光景ばかり。港だけでこんなにも人が集まるなんてお祭り以外見たことはなかった。

 見るものばかりすべて珍しい物ばかり。ついつい目がいってしまう。


 親友は一か月前に来たばかり。その前は外の世界でうんざりするほど見てきたのだろうか。親友は特に興味もない感じだった。


「…気づているか」

「ええ」


 周りから漂う殺気のオーラ。無数の人の中に紛れ込む明らかに戦闘特化した人物がいる。それもその数は尋常じゃない。

 武器を隠さず手に持っている人物も四人に一人はいた。

 こんな連中が港に集まるのは不自然な光景だった。


「おそらく俺達と同じ目的地の連中なんだろうな」


 親友が目を細めた。

 親友でも殺気が背中に突き刺さるのを感じているほど彼らは周りの連中をライバル視していた。年に一度数人しか受からない称号だ。誰かを落として手に入れようとする連中は少なからずこの中に混じっている証拠だった。


 町を離れ、バス停についた。

 バス停の前にはすでに何万人以上の行列が並んでいた。


「全員目的地のハーズ市街地行か。何十時間かかるんだか」


 壁に掛けられた大きな地図を見つめた。

 地図にはここからハーズ市街地までの距離が書かれている。およそ計算して十分ほどかかる距離に位置していた。


「さっと行けば、こっちのほうが近いか」


 道に指を向けた。バスを待つよりも歩いていった方が近い。そう考えていた。


「その考えは否定的だな」

「なにっ!?」

「試験会場は確かにハーズ市街地だ。だが、市街地のどこで行われるのかは説明がない」

「あ…!」

「つまり、このままバスに乗って行っても肝心な場所がわからないから意味がないということだ」


 シャルが言うことは事実だ。ガンドルフの説明書にも肝心の場所まで書かれていなかった。これはつまり――


「”正確な位置は自分たちで見つけろ。魔法使いなら当然だろ”ということだろうな」


 バス停からしばらく歩いたのち、そう結論付けた。


「ならどうするんだよ! 座標を調べる魔法を持っているのか!?」

「それはない」

「右に同じ」

「ぼくもだね」

「全員かよ!」


 持っていた缶を親友が投げつけた。


「審査員もバカじゃない。特殊な結界で調べることもできないようにしている。なにせ、受験生が毎年五十万以上いる中、試験会場に受付できた人は百数程度だと言われている。これも調査によればだけどね」

「ぐっ…つまり、はじめから試験は始まっているということか?」

「そういうことだねジン」


 試験は当に始まっている。正確な場所を見つけなければ受付会場にたどり着けない。なら、どうすれば見つけれる?


「私に候補があります」


 エルマが手を挙げて言った。


「助けた船員から聞いたんです。”一本杉に行けばわかる”と」


 一本杉…? 周囲の山へ目を移す。


「あれじゃないか」


 親友の指の先に山の頂上付近から一本だけ突き出た木がある。周りは一面緑。その中に異様なほど一本の木だけが突き抜けていた。

 どうやら、あそこが一本杉のようらしい。

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