第9話 二人は主人公にひかれあう

 互いににらみ合う中の出来事だった。

 船が大きく舞い上がり、嵐の風が真空の壁となって船を襲った。足元がおぼつかないほど力強い。人間なんていつでも吹き飛ばせる。嵐はあざ笑うかのように船の上で耐えている乗組員たちを見ていた。


「船がひっくり返るぞ!! 帆をあげろ」

「急げ! マストがもたないぞ」

「そーーれ!!」


 乗組員たちが必死で船を支えようとしている矢先、親友とシャルが船の真ん中でいがみ合っていた。


「訂正すれば許してやるぞ」

「俺から謝罪する気はない」


 シャルが剣を抜いた。日本刀。それも禍々しいオーラを放つ。


「妖刀か」

「半分不正解だ。魔法刀。魔力を刀に纏わせた技術の結晶。妖刀と違い、己の魔力で威力を加減することができる。そこらへんで手に入る安物とは違う。この刀で切られた相手は必ず死ぬほど痛みで苦しむ。声が枯れようともその痛みは一生止まない」

「長々と解説ありがとうな。俺はこれと言った武器は持ち合わせていない」

「なら、さっさと謝罪すれば片腕だけで許してやる」

「分からねぇのか?」

「なにをだ」

「武器を持たない――つまり魔法に自身があるということだ」


 武器をあえて持っていないと振りをしているのかもしれない。魔力を感じられない。魔法に自身があるというのはハッタリだ。だが、武器を隠し持っている可能性はある。シャルと同じ魔法刀や魔法剣なら、迂闊に接近するのはよろしくない。


「怖気ついたのか?」

「誰が貴様なんぞに」


 ゴオーと突風が吹いた。マストが耐えきれず折れた。

 折れたマストの一部がクルクルと回転しながらある人物の頭部に命中した。


「ぎゃっあう」


 ぶつかった衝撃で船の外へ投げ出された。


「ノックゥ!!」


 船員たちが助けようと手を伸ばすが距離があり届かない。

 今、この海に落ちれば生きて帰ってくることは不可能だ。魔法でもない限りは生きて帰ってくることは圧倒的に無理だ。


「チィッ」


 親友が走った。最も距離が近くはなかったが、助けられるかもしれないと親友は手を伸ばす。


(…どうする)


 最も近い距離にいながらもシャルは反応しなかった。親友がどんな魔法で助けるのかを見たくてあえて動こうとはしなかった。

 吹き飛ばされた乗組員を捨て駒にすることで親友の術を知ろうと優先した結果だった。


 それよりも先に走ったのはティノだった。


「おいっ! お前!!」


 船長が止めに入ろうとしたが遅い。ティノはもう海へと飛んでいた。乗組員を両手でしがみつく。


「ティノ!?」


 パッと消えた。背後でドサと音が聞こえ、振り返る。

 ティノと頭部から血まみれの乗組員(ノック)が倒れていた。


「あいて――鼻をうった」


 鼻を押さえながら涙目のティノに二人は口をあけっぱだった。

 乗組員たちがノックを船内へ運んでいく。その際にエルマが回復魔法を施していた。


「なんつぅー行動力だ」


 船長が帽子を下げ、「あとちょっとで死ぬとこだったんだぞ。まあ、俺の部下を助けてくれたのは感謝するがな」とにっかり笑った。


「助けなくちゃって思って…」


 照れ臭そうにティノはテヘヘと笑いごまかしていたが、グイっと肩を何者かに引っ張られた。


「笑っているところじゃねーぞボケ!」

「よく無茶なことをしたもんだ!」


 親友、シャルが激怒していた。


「助けなくちゃいけないと思って。つい夢中になって…ごめんなさい」


「……謝らなくていいよ。それに俺は間に合わなかった」

「同意だ。私も助けるチャンスはあったが、行動できなかった。本当は攻める権利はないのだから」


 二人は冷静さを取り戻していた。


「決闘はいいの?」


 先ほどまで決闘するほど仲が悪かった。決闘の続きはやらないのかとティノは二人に聴いていた。


「あ…ああ」


 情けない声が出た。決闘を続けるという気力がもうなかった。


「つい頭がカッとなってしまった。非礼を詫びようジンさん」

「ジンでいいよシャル。俺の方だって先ほどの言葉は全面的に撤回する」


 二人の空気が穏やかになった。仲直りができたようだ。


「ふ…くっくっく、はっはっはっは!!」


 壁ドンして立っていた船長が大笑いした。


「お前ら気に入ったぜ。よし、お前ら全員合格だ」


 気分よく足取りがよい。

 高齢とは思えないほど若返ったかのようなステップぶりだった。

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