第4話 好条件
「現れた? どういうことだ」
頬をなでながら立ち上がった。痛みはまだ引いていないが、親友が冷静を取り戻せと殴ったと解釈した。
「怪物とは4年前、血のつながっていない兄ミッドを殺した犯人だ。ぼくは、たまたま外からやってきた魔法使いから最強の魔法のひとつを教えてもらった」
「それが”転移術”だっていうのか!?」
「そうだ。その魔法のおかげで、物を移動する。物と交代する。物と位置を入れ替えるなど術を得た」
「だったら、なんであのとき、真っ先に戦わなかった!」
ティノはうつぶせ、過去の絡みから記憶が混在したことを打ち明けた。
「ぼくは、ダメだった。あの時、動けなかった。ミッドと先生が重なった。あの日、助けを呼ぶって言って、ミッドを見捨てた…戻った時には……ぐぅっ…。先生が教室に入った時から違和感があった。覚えていた。でもできなかった。あの怪物を見た瞬間から、ぼくは敗北してしまっていたんだ」
幻滅するかのようにぼく自身を呪った。
それを見かねた親友はこういった。
「同じ怪物だったからなんだ。俺だったらそんなすごい魔法を持っていたら躊躇せずに戦っていた。だって、昔の自分とは違うんだろ。力もある、魔法もある、倒せる術もある、体力もある、俺もいる。あの時の条件になかったものがすべてそろっている。それを使わずに逃げるなんて、俺はお前のことを一生恨んでいただろう」
親友の励ましの言葉が胸の奥で引っかかていた小骨を取ったような感覚になった。過去と重ねていた。過去の弱い自分だと思い込んでいた。
ティノは立ち上がった。過去の沼に埋もれていた自分を引き抜き、親友の手を握った。
「ぼくは戦う! だから協力してくれ!」
「ああ、その言葉を待っていた。一緒に倒そう!」
親友と初めて手を握ったかもしれない。この小さな手をまるで大きな手で握手したかのような心強さを感激していた。
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