第5話 絆パラメータが足りない
森を抜け、校舎に舞い戻っていた。
「いたか?」
「いや…いない」
校舎の中は血の臭いが充満しており、ハエや虫がたかっていた。
バラバラになった惨殺遺体を尻目に、怪物を探して校舎内を徘徊していた。
「うっ……」
口を当て、立ち止る。
後からやってきた親友が見せろとティノを遮った。
「これはひどい」
教室内はゴミ袋に積み込まれた生肉を散乱させたかのように地獄絵図だった。窓や壁、天井と赤いペンキで塗られており、床は足場がないほど内臓物が散乱していた。恐ろしく悲しくもあり気持ち悪くもなる光景だった。
「うげっ」
親友と一緒にティノは廊下の窓から顔を出し、吐いた。
胃に溜めていたものが吐き出されると、涙目と吐き出された一部が鼻の奥へと流れ込み、気分が悪くなった。
しばらくして、校舎内を再び探索したが、怪物の姿はどこにもなかった。
「クソ! 奴はどこに行ったんだ!?」
「これだけ探していないということになると、姿を消して山に帰ったか…町へ行ってしまったか…」
「前者だと取り返しがつかない! だが、後者だとまだチャンスはある」
「チャンス? なぜそんなことを言う。町のみんなを犠牲にしろというのか!?」
「違う! 怪物を倒すには絶好のチャンスだと言ったんだ。町のみんなが襲われる前に倒せば、ティノの心の闇も怪物の恐怖もなくなる」
「……」
「俺だったら、その術を身に着けていたら、こんなことをしていなかった」
「すまん」
「なんで謝るんだよ。謝る必要なんてないよ。俺は俺のやり方で言っただけだ。それに、俺は外の人間だ。この島の人のことはどうでもいいと感じているから心の無い人だと思われても仕方がないさ」
親友は皮肉っていたが、内心この島のこともみんなのことも気にかけていた。
この島に来た彼の表情は最初曇っていたが、みんなと触れ合っていくうちに今みたいに明るく振舞うようになったからだ。
少なく彼は町のみんなを犠牲になってほしくはない。そう考えているはずだ。ぼくを突き動かそうと彼なりに真剣なんだ。
「ありがとう」
ビックリした目を開く。
「バカ、そこはお礼を言うところじゃないだろ!」
と、コツンと頭を軽く拳を当てた。
「お前のそういうところが俺は苦手だ。でも、嬉しかったよ。最初は、俺も置いてけぼりにされるのだと思っていた。あのまま、俺を置いて逃げれば、君を咎める人は誰もいなかった。なのに、俺と一緒に逃げた。それはなぜなんだ?」
「親友だから。ミッドの他に自分から大切にしたいと考える人はそういなかった。ましてや、親しい人以外に名前を呼ぶことを禁じているこの島ではね」
「だから、今でも名前を呼ばないのは…なぜなんだ」
「まだ、絆パラメータが足りないから…かな?」
「ゲームかよ。まあ、いいけど。だったら、絆パラメータが達成したとき、名を呼ぶことにしよう」
「そうだな。まずは「怪物討伐」クエスト達成後だ」
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