008 その娘はまだ純粋である
初めて訪ねた友人の家で一週間お泊りするだけでもドキドキするというのに、その友人の両親が今晩同じ屋根の下で愛し合うなんて話を耳にしてしまったモニカ。
当然冷静でいられるはずもなく、屋敷内の観光を早々に切り上げてソフィアの寝室で休むことになった。
「想像はしてたけど……ソフィアちゃんの部屋広すぎ!」
モニカが普段暮らしている実家がすっぽり入るのではないかという広さ。
白を基調としたロイヤルな家具の数々。
そして、女の子のあこがれ天蓋付きのベッド。
まさにおとぎ話のお姫様が眠る部屋だ。
少し違っている点と言えば、ベッドの大きさだ。
十四歳の少女とはいえ、体がすでに大人になり始めている二人が大の字になって寝ころんでもまったく狭さを感じない。
快適だがファンシー感がない巨人のベッドだ。
狭苦しくギシギシと軋むおんぼろベッドで寝るのが日常になっていたモニカにとっては、当然落ち着く場所ではない。
そのうえ、体調不良を心配したソフィアがずっと手を握っていてくれるのだ。
胸は高鳴り、頬は紅潮し、とても眠れるはずもなく、そのままの状態でディナーの時間を迎えることになってしまった。
「モニカちゃん大丈夫? もし、しんどいなら寝室にご飯を持ってきてもらってもいいけど……」
「大丈夫よソフィアちゃん。尊敬してるジャンヌ様とお食事するから、ちょっと緊張してるの」
その言葉に嘘はない。
実際、モニカの頭の中は食事マナーの心配とジャンヌにまだ嫌われているのではないかという心配でいっぱいだ。
「まあ、世の中では聖女で通ってる二人だから、ご飯に誘われると緊張しちゃうよね! でも安心して! どんなに偉い人も自分の家で食事をするときは普通の人間に戻るのよ」
ソフィアの言う通り、聖女の食事風景はモニカの想像しているものとは違っていた。
(テーブルが……長くない!?)
想像していたのは、会話をするのにも苦労しそうな長い長いテーブルの端っこと端っこで食事をする風景だった。
しかし、実際は普通の家庭にも置いていそうな四人掛けテーブルに二人の聖女がちょこんと座っている。
テーブルの上に並べられている料理は豪華なので、テーブルの異質感がより際立つ。
「あっ、モニカくんいらっしゃい。どうぞ席にかけてくれたまえ」
「ありがとうございます……」
「ふふっ、やっぱりこのテーブルに違和感があるかい?」
「はい、もっとこう長ーい高級そうなテーブルで物静かにお食事をしているものだと……」
「やっぱりね! うちで初めて食事をする人はみーんなそう思ってるんだろうなぁ。このテーブルだって大きくて頑丈で、地味だけどいい仕事してるんだよ。もちろん大人数のお客様用にモニカくんが想像しているようなテーブルも置いてあるけどね。でも、家族と親しい人だけで食事をするなら小さい方が便利でしょ?」
「ええ、それはそうですね。お料理に手が届きやすいですし、会話もしやすいです」
「うんうん! そういうことで我が家では家族で食事をする際にはこの小さなテーブルに頑張ってもらっているのさ。まあ、あくまで我が家の中で小さいテーブルであって、世間一般的にはこれでも大きめなんだけどね」
イザベルがテーブルを撫でる。
使い込まれているのか、シミや傷もところどころある。
これもまたテーブルが記憶している家族の思い出なんだろうとモニカは思った。
「おっと、食事の前に我が家のテーブル理論について語ってしまった。料理が冷める前にいただこうか」
「待ってイザベル。私からモニカちゃんに話すことがあるわ」
いただきますを遮ったのはジャンヌ。
モニカはごくりと生唾を飲み込む。
やはり、嫌われて……。
「ごめんなさいモニカちゃん! とんでもない勘違いで冷たくあしらって申し訳なかったわ!」
「ええっ!? あ、頭を上げてくださいジャンヌ様! どういうことですか!?」
「私ね、ソフィアがいきなり女の子の連れ帰って来たから、てっきりお嫁さんにするんじゃないかって……」
「……お嫁さん? 私がですか?」
「そうなの……。だって、モニカちゃんって若い頃の私にそっくりで……。子どもって親と似た人を好きになるって言うでしょ? だからてっきり……」
「そ、そそ、そんなことあるわけないじゃないですかっ! 少なくとも現時点ではっ! か、考えもしませんでしたっ! まだ学生の身分……いや、学生にもなれてませんからっ!」
「本当にごめんなさい! 言い訳みたいになっちゃうけど、私も娘の友達と会うのは初めてで、ちょっと混乱しちゃったの。モニカちゃん本当にすごく綺麗で、そりゃソフィアも好きになっちゃうよねって認めちゃったの」
「私を……認めてくださったんですね」
そう言われるとモニカは悪い気がしない。
そもそも、ジャンヌの誤解が解けて和解した時点で、モニカにとっては大きな心配事がなくなって晴れ晴れとした気分なのだ。
「ジャンヌ様の気持ちはよくわかりました。あの時のことはもう気にしていませんし、どうかジャンヌ様も気にしないでください。あの、お呼ばれした私が言うのも何ですが、そろそろお料理が……」
その時、モニカのお腹が盛大にグゥ~っと鳴った。
恥ずかしくてみるみる顔が赤くなっていく。
「た、大変失礼しました! その、試験の緊張でここ数日ロクに食べてなくて……! また、お料理があまりに美味しそうだったので……! お腹が鳴ってしまいましたぁぁぁぁぁぁ!」
あまりの慌て様にソフィアが笑いながらフォローを入れる。
「それこそ気にしなくていいわモニカちゃん。私たちも普段はお腹をグゥグゥいわせながらご飯を待ってるから! さあ、ご飯にしましょ! 熱いお料理は熱いうちに食べなければ、お料理に失礼というものですから!」
ソフィアの号令で賑やかなディナーは始まった。
始まってしまえば、モニカが気にしていたようなことは何も気にならなくなった。
二人の聖女は特に細かな食事マナーを気にしてはいなかったからだ。
これに関しては一応「しかるべき場所では正しく食べる」と釈明があったが、少々怪しい笑みを浮かべていた。
書庫で聞いた話も、絶品の料理を次々と舌に運ぶうちに普通のことに思えてきた。
(美味しいご飯を食べて、楽しくおしゃべりして、愛する人をだ……抱くはちょっとエッチすぎる! 愛する人と愛し合う……! きっとそれは普通のことで、不潔でも、恥ずべき事でもない。私もいつかこんな幸せな家庭を築けるかな?)
モニカがチラリとソフィアに視線を送る。
それに気づいたソフィアはニッコリと笑顔を見せた。
将来のことなどわからないが、モニカにとって今は幸せな時間だった。
「ふーっ! たくさん食べたわね! もうお腹いっぱい! モニカちゃんはどう?」
ジャンヌが前のめりになって尋ねる。
「私もお腹いっぱいです……。こんなに食べたのは生まれて初めて……。とっても美味しかったです! それに大ファンのジャンヌ様とお話しできて、感無量です!」
「えっ! モニカちゃんって私のファンだったの!?」
「はい! 実は過去に一度だけ直接お会いしたこともあって、その時にジャンヌ様のことを知ったんです。それからはずっと好きで好きで、貰ったハンカチを今でも使ってるんです!」
モニカはポケットから取り出したハンカチをジャンヌに見せる。
「そ、それはソフィア生誕10周年記念のハンカチ! 確かこれは非売品で親しい人にだけ配ったはずなのに……」
「ジャンヌ様は偶然私たちの村を通りかかって、その時に親に叱られて泣いていた私の涙をそっと拭ってくれたんです。泣いてる少女を助けるなんてジャンヌ様にとっては当然のことすぎて覚えてらっしゃらないのも無理はないです。でも、私は目指すべき光を見つけた気分でした」
「そ、そんなに私のことを……!」
「はい、だから私は両親に夢を打ち明けて、リリエンタールの門を叩いたんです。私は……ジャンヌ様のような聖女になりたい!」
「はうぅ……! 聖女をやっててこんなに嬉しいことはないわ! ハンカチ! とりあえず感謝の気持ちに新しいハンカチをあげる! 相当使い込んでくれたみたいだし!」
「そ、そんな申し訳ないです!」
「いいの! 実はソフィア生誕10周年記念が好評だったから11周年、12周年とどんどん作って今度は売ってみたら、記念の数字が中途半端すぎて売れ残っちゃったの! だから好きなだけ持って行って! ハンカチたちも喜ぶわ!」
「そういうことならいただきます! ハンカチは何枚あっても困りません! 毎日使うし、暑い日は汗を拭いた後に新しいハンカチに変えないといけませんから!」
「ありがとう! モニカちゃん!」
「こちらこそ! ジャンヌ様!」
抱き合って喜びを分かち合う二人。
それをソフィアとイザベルは黙って見守った。
しかし、それは別に感動ゆえの沈黙ではない。
二人が考えていることは、くしくも同じだった。
(あのおっぱいとおっぱいの間に挟まれたい……)
(あのおっぱいとおっぱいの間に挟まれたい……)
背丈が大して変わらない巨乳の女性同士が抱き合えば、必然的に胸と胸がぶつかる。
いま、ジャンヌとモニカの豊かな胸はお互いに押しつぶしあい『ムニュうっ!』という感じになっている。
乳密度の高い幸せ空間。
この巨乳好き親子の興味をひかないわけがなかった。
さらにイザベルにとってはハリのある若いモニカの胸に対して、ジャンヌの柔らかい胸が少々劣勢気味なのがまたツボだった。
(今夜はあの柔らかな熟れた果実を存分に味わおう……。私だけのものだから……ね)
劣情はさらに激しく燃え上がる、
一方ソフィアは……。
(やっぱモニカちゃんの胸は最強だなぁ! 私もお乳同士をぶつけてみたいなぁ。絶対負けちゃうけど)
ソフィア・ラノワ・フォンティーヌは……まだ純粋である――。
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