009 その娘はすけべである
ジャンヌと和解し、食事を無事終えたソフィアとモニカは屋敷の廊下を歩いていた。
広い屋敷内は歩いて移動するだけで食後のいい運動になる。
「それにしてもビックリしたね! まさかジャンヌ母様がモニカちゃんをお嫁さんだと勘違いしてたなんて!」
「本当にびっくりしたわ。光栄なことだけど、私たちはまだ出会ったばっかりだもんね」
「うんうん! 私だって木の股から生まれたわけじゃないし、生涯を共にするパートナーはじっくり考えて決めないといけないってわかってるんだから! 母様たちだって長い年月をかけて恋人になったわけだから、そこのとこわかってると思ってたんだけどなぁ」
「まあ、自分のことと子どものことは違うのかもね。子どもに対しては臆病で過保護になる気持ち……私にはなんとなくわかるなぁ」
「ふふっ、モニカちゃんは良いお母さんになれそうね! ところで話は変わるんだけど……」
ソフィアが急に足を止める。
それに合わせてモニカも止まる。
「モニカちゃん……確かたくさん汗をかいてたわね?」
「うん、魔力検査の時にたくさん出ちゃった……。それに今日は一日中冷や汗が流れてたかな。はっ! まさか私汗くさい!?」
「ううん、臭くないわ。でも、やっぱり一日の終わりには体を綺麗にしたいとは思わない?」
「それはそうね。体を洗って……」
ここでモニカの頭にある考えがよぎる。
ソフィアはなぜか遠回しに自分をお風呂に誘っているのではないか……?
「体を洗って、あったかいお湯につかって、くつろぎたいと思わない?」
「お、思うよ。お風呂に入りたいな~」
「でしょ!? じゃあ、一緒に入ろ! 背中洗いっこしよ!」
ソフィアはガッチリとモニカの手を掴んで大浴場へと引っ張っていく。
(やったぁ! モニカちゃんと裸のお付き合いだ! もしかしたらポロリもあるかも……。うふふふふふ……っ!)
ソフィアは女の子のあるまじきねっとりとした笑みを隠せない。
もはや一緒にお風呂に入る意図は透けて見えていた。
(もう、ソフィアちゃんったら……。でもまあ、予想の範囲内よね。私も毎回驚いたり気絶したりしてるだけじゃ、ソフィアちゃんの本当の友達にはなれないわ! アニエスさんとかはソフィアちゃんの前でも冷静だもん! 私もソフィアちゃんが隣にいることを日常にしていかないと!)
それぞれの思いを抱えて、二人の少女は大浴場に向かう……!
◇ ◇ ◇
(脱衣所からして広い……! でも、このお屋敷のサイズでお風呂だけ小さい方が驚くし、普通のこと……これは普通のことなのよモニカ!)
自分に暗示をかけて冷静を装うモニカ。
脱衣所のひんやりした空気を感じると、まだ服を脱いでいないのに裸にされたように気分になる。
深呼吸でなんとか気持ちを整える。
「好きな場所使ってくれていいからね~。この時間は二人だけの貸し切りにしてもらったから!」
ソフィアはするすると慣れた手つきで服を脱いでいく。
あっという間に下着だけの姿になってしまった。
上下薄いピンクの下着はソフィアの白い肌と非常にマッチしている。
引き締まった手足、そして腰は健康的で理想的。
女神をかたどった彫刻のような完成された肉体美がそこにあった。
「そ、ソフィアちゃんは大胆だね……」
「そうかも! 自慢じゃないけど自分の体には自信があるからね! 毎日イザベル母様の決めたメニューで体を鍛えてるし、ジャンヌ母様と同じ方法で体のケアをしているもの!」
「やっぱり綺麗な人は自分に自信があるから、人に見せるのも恥ずかしくないんだね」
「そ、そんなことはないよ!? ここは脱衣所だし、見せる相手がモニカちゃんだからためらいなく脱いだだけ! 私、別に露出狂じゃないからね!?」
「でも、誰に見せても恥ずかしくないくらい綺麗だよソフィアちゃん」
「うふふ~、それは確かに~。でも、それを言うならモニカちゃんだって魅力的な体してるんだから! ほらっ、早く脱ぎなさい!」
抵抗することが出来ないほど鮮やかにモニカの衣服がはぎとられた。
(ソフィアちゃん……脱がせ慣れてるわね……!)
あまりの手際の良さに、恥じらうより先に感心してしまうモニカ。
あらわになった下着は上が地味なベージュ、下が薄い水色だ。
ブラは学院でソフィアも見ているので驚きはないが、目を見張るべきはやはりそのブラに包まれているものだ。
(谷間が……深い! 私の拳ぐらいなら飲み込まれてしまいそう! ツッコミたい! 今すぐこの手をあの魅惑的な隙間に……!)
欲望をグッと抑え込み、他の部分に視線を動かす。
胸以外にも非常に肉付きの体はどこも見ても抱き着きたくなる衝動に襲われる。
特に腹から腰、ふとももにかけてのラインは、引き締まっている体とまた違った肉体美がある。
「わ、私は見られて恥ずかしい体だから……あんまり見ないで欲しいな」
「そんなことないよ! むしろモニカちゃんの方が私より良い体してるよ!」
「でも、お腹周りとかちょっと……」
「それでいいんだよ! 女の子の体っていうのは! お肉がついててこそなんだよ! 私がみんなに『細すぎ』とか『鍛えすぎ』ってよく言われる理由が今わかったわ……。『むっちり』こそが女の子のあるべき姿なんだ……」
「そう……なのかな? 女の子はみんな痩せたがってると思うけど」
「それは陰謀よ。きっと痩せてる方が良いって間違った風潮を広めて、女の子から『むっちり』を奪っている闇の勢力がいるのよ! きっとそうに決まってる! いつか見つけ出してぶっ潰してあげるわ……!」
「そ、それは行き過ぎた妄想なんじゃないかな?」
「……だよね」
ソフィアは苦笑いをして、くるりとモニカに背を向ける。
そして体にバスタオルを巻きつけてから下着を脱ぎ始めた。
その行動がそうにもソフィアらしくなくて、モニカは疑問に思った。
「どうしたの?」
「いやぁ、お風呂ってリラックスするための場所でしょ? だから私の裸を見たら落ち着かないかなって思って。あと、私もモニカちゃんの裸を無理やり見たりはしないよ。流石にそこらへんの常識はあるんだから!」
ソフィアはにっこりと笑うと、扉の向こうの浴場に消えていった。
あっけにとられていたモニカだったが、確かに丸裸を見られる心配がなくなったのはありがたい。
いくら相手が同性のソフィアでも、大事なところを見せるのにはまだ抵抗があった。
「破天荒に見えて、たまにこうやって気遣ってくれるところがソフィアちゃんの魅力よね」
「モニカちゃん!」
「ひゃ!? ひゃい!」
慌てて体を隠すモニカ。
しかし、ソフィアが戻ってきたわけではなく、扉越しに大声で話しかけてきただけだった。
「お風呂の床すっごい滑るから気をつけてね! 私思いっきり滑っちゃった! でも怪我はなかったから安心して! いやぁ、やっぱり体を鍛えることも大事だね! むちむちのまま体を鍛えるにはどうすればいいのかなぁ~」
「あ、あはは、そうだね!」
気を遣ってるのか、本能のままに動いているのか……よくわからない。
でも、だからこそ惹かれるのかな?
そうモニカは思った。
◇ ◇ ◇
大浴場は大きい浴槽が一つだけというわけではない。
複数の浴槽にそれぞれ効能が違う天然温泉で満たされている。
ジャグジーや水風呂、サウナに流れるプールならぬお風呂も存在し、もはや遊ぶことが出来る。
しかし、もうモニカは驚かない。
足を滑らせないように注意しながらソフィアのいる浴槽に浸かる。
この浴槽は白濁した湯で満たされているため、タオルなしでも体を隠すことが出来る。
モニカは大胆に体を伸ばし、温かな湯に身を任せる。
「あぁ、きもちいい……。天にも昇る心地っていうのは、こういうことなのね……」
実は家に風呂がないモニカ。
普段は体を洗うだけのため、お風呂のありがたさがまさに身に染みる。
「喜んでもらえて嬉しいわ。このお風呂って一人で入るには広すぎるし、こうやってお友達と一緒に入るのがひそかな夢だったの」
「確かに広すぎるもんね……。普段は一人で入ってるの?」
「いや、母様たちと入ったり、メイドさんたちと入ったり……」
「まあ、そうじゃないともったいないからね。せっかくの広いお風呂だもん」
おそらく体を触りあって楽しむのだろうとモニカは勝手に思った。
そして、それは当たっている。
「ソフィアちゃん、もっと近くに来てもいいよ」
「え、でも……ドキドキしない?」
「お風呂で頭がボーっとしているから、あんまり気にならないかな。それに見せてって言われると恥ずかしいけど、見えてしまうものは仕方ないから、そんな目を逸らさなくてもいいよ」
「ほ、ほんとぉ!?」
ソフィアはじゃばぁっとお湯を跳ね飛ばしながら立ち上がる。
その際、その体のすべてがあらわになってしまう。
「わーーーーーーっ!? ソフィアちゃん全部丸見えだよっ!?」
気にする様子もなく、ソフィアはそのままガバっとモニカに抱き着いてその肌と肌を擦り合わせる。
「あぁ……ずっとこうしたかったんだよモニカちゃん……」
「い、今まで我慢してたの?」
「うん。モニカちゃんって試験の時もそうだったけど、ドキドキすると気絶しちゃう体質みたいだから、何回もドキドキさせるのは悪いなぁって思って……」
「気を遣ってくれてたんだ……」
「言っちゃうと恩着せがましいけど、私も初めて友達を家に招いたから、結構緊張してたんだよね。えへへ。本当はうちのお風呂は基本タオルで体を隠さないし、こうやって触りっこするのが普通なんだ。こうやってお肌とお肌を合わせると、お湯とはまた違う温かさで気持ちいいんだ~」
「まあ、それは確かに……」
背中に感じるソフィアの胸。
柔らかさ、大きさ、その先端の感触もまるわかりだ。
恥ずかしいが、気持ちいい……。
モニカも徐々に冷静でいられなくなってくる。
「そ、ソフィアちゃん! 背中洗いっこしない!?」
「うん、いいよ! 先に私が洗ってあげる!」
危ないところだった。
このままでは、自分からもっと体を触ってほしいとお願いしそうなほど気持ちよかった。
モニカに残っていたわずかな理性がストップをかけ、二人は浴槽の外に出た。
「じゃあ、そこに座ってモニカちゃん!」
いくつもあるシャワーと椅子の中の一つにモニカは座る。
まだソフィアの感触が残っている背中を、ソフィアが洗い始めた。
「あ……なんか、また違う気持ちよさというか……」
先ほどまで頭の中を支配していた桃色の妄想が消えていく。
なぜか子どもの頃を思い出すような懐かしい気持ちと嬉しい気持ちに満たされる。
「そういえば、誰かに背中を洗ってもらったのって、何年ぶりだろう……。大きくなったらお母さんも洗ってくれなくなるし……」
「へぇ~、モニカちゃんの家はそうなんだね。私はは絶対誰かに洗ってもらうようにしてるよ! だって、背中って自分で洗うようにはできてないじゃない? きっと、誰かに洗ってもらうのが背中も一番嬉しいんだよ!」
「そうだね。私も後でソフィアちゃんの背中を精いっぱい洗うわ」
「お願いします! ふふっ、学院にもお風呂はあるだろうし、寮に入ってもこうやって背中の洗いっこしようね!」
「うん! ……って、ちょっとしんみりしてる時に胸揉まないのソフィアちゃん!」
「ご、ごめん! ついつい……」
「もー、ソフィアちゃんったら! こうなったら仕返しよっ!」
モニカは振り返り、ソフィアの胸をむんずと掴む。
整った乳房がモニカの手によってむにゅむにゅと形を変えていく。
「んっ……! わ、私やられるのには慣れてないの! ごめんなさい! 許して! だって、背中越しに見えるくらいお乳が大きかったんだもん! 揺れてたんだもん! そんなの見せられたら揉んじゃうもん! そう育てられたんだもん!」
「言い訳無用!」
「だってだって……これがソフィア・ラノワ・フォンティーヌなんだもん!」
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