13話 廃屋の寮

 僕たちはなんとか8時前には部屋を出る準備を終え、いざ部屋から出ようとした時、栞がこちらを振り返った。


「お姉様、部屋から出たら誰に合うかわからないので口調もお姉様としてふるまってくださいね」


 今回の編入で僕は女学生として通うことになったのだが、常に女性として生活するのには無理がある。だから、寮の部屋の中では僕が男だとバレる言葉を禁止した上で、唯一口調を戻せる場所と決めたのだ。


「ええ、わかっています。栞も気を付けてくださいね」


 そうして、初めて2人だけで寮の廊下を歩いているのだが、おかしい……。隣を歩いてる栞も怪訝けげんな表情をしていた。僕たちの部屋から食堂までにはたくさんの寮生の部屋があるのにもかかわらず、寮生の姿がないのだ。


「誰もいませんね……」


 栞はそう言うと僕のスカートの端をつまんできた。やっぱり不安がたくさんある中で、予想外のことが起きるのが怖いのだろう。そう思い、僕は栞の手を握りながら答えた。


「そうですね。もう学院に行ってしまったのでしょうか?」


 僕が手を握ったからだろうか、少し照れている栞は前を向いたままボソッと答えた。


「ですがお姉様、今日は土曜日ですよ……」


 そうして話しているうちに、食堂へと着いた。


「「…………」」


「本当にここですか? 誰もいませんし、これはひどすぎませんか……」


 言葉を失ってしまった僕たちの目の前には食堂があった。いや、食堂であったものかもしれない。

 

 僕たちの目の前に広がる光景は、まるで何十年も前の物であるかのようにボロボロで、机にはほこりが積もっている悲惨なものだった……。



 

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